――ガラッ。
扉を開くと、幸い誰もいない様子だった。
「(やった、一人かしきりだ!)」
夜景がイルミネーションみたいに光っていて、
まさに絶景とはこのことであろう。
…あのガキたちのおもりの疲れを癒してくれるのは、露天風呂だけだよ…。
これからどうしようかな、私。
不安はつもりに積もるばかり。
「(いや、今だけは忘れよう)」
そうだ、今だけ忘れたってバチはあたらないさ!
露天風呂事件
バシャアッ。
白色に濁った感じの露天風呂に入ると、
お湯が漏れて外へと少し流れていった。
…あったかーい!さいこう!
「ぶはっ、かしきりとか泳ぎたくなるなー」
えーい、泳いじゃえ!
バシャバシャバシャッ。
クロールですいすい泳ぐ私。
…まあ、タオルが体にまきついてあるからいつ誰が来ても対応はできるからね、うん!
「えーっと…なんだっけ、あれだ!
エビフライ!」
そういって違う泳ぎをしようとすると、どこからかゴンッ!という鈍い音が聞こえてきた。
「………?(今、何か音が聞こえたような…。)」
いや、気のせいか。
なんてそこまで私は天然じゃないぞ。
「(……誰か、いるっ)」
きっとあの岩の後ろに隠れているんだろうなあ。
…見てもいいのだろうか。
けど、正体を知ったところでどーしよーもないし。
「(けど気になったまんまはいやだし、)」
私は覚悟を決めるとタオルがしっかり体に巻きついているのを確認してからバシャバシャとお風呂をかきわけて岩へ向かっていく。
「――…」
そこにいたのは。
「ユウジ?!」
「ぎゃああぁぁあぁあ?!
あかん、お前何やその不埒な格好!今すぐ着替えてこいいいいい!」
そういってビックリしたように目を丸めたユウジが慌てたようにこちらに背を向けた。
…そういえば、この時間帯って混浴なんだよね。
いつからそこにいたんだろうか。
「あの、いつからそこにいたんですかね。」
「…最初からや」
「………。」
じゃあ、あれか。
泳ぐところを全部聞かれてたのか。
物凄く死にたくなった。
「……いるなら声かけてくれてもいいのに」
「――かけれるわけないやろ!
だ…だって、おまえ…」
そういってわなわなと震えるユウジ。
「ん?」
「何でもないわ!はよどっかいきぃや、貧乳!」
カッチーン。
「なんですとおおおおお?!
あんた、私の乳バカにすんじゃないわよ!」
「ぎゃあぁぁぁああくんなあぁぁ!
誰か助けてええぇぇえ、嫌やああぁぁあ!」
ユウジはどうやらこういう感じのことに苦手らしい。
…必死こいて逃げてる逃げてる。
オモシロー。
「…とりあえず私タオル巻いてるし、大丈夫だよ?」
「……っ、せやけど、」
「あー…もう、なら私風呂からあがるね。
ユウジはゆっくり入ってればいいし」
そういって風呂からあがろうと立ち上がった瞬間――。
ガシッ。
「…………何、この手。」
「いや…あー、そうやないねん…。」
そういって「あーもう!」といってユウジがぼりぼり頭をかいた。
よくよく見ると、ユウジはバンダナを外して更に髪の毛もいい感じに濡れて色っぽかった。
…いつもの外ハネはどこへいったのやら。
「……入っとれば、ええやん」
「……っは?」
「せやから!
…入ればええやん。」
……ユウジが何を言いたいのかさっぱり分からない。
体隠せーだの、貧乳だの、
近づいたらくるなーだの、でようとすれば入ってればいいだの。
…言ってることが矛盾だらけなんだけど。
「……いや、あの、え?」
「細かいことはええやん!
お前は入っとればええんや!」
強引なユウジに渋々私は承諾をすると、ユウジと少しの感覚を置いて隣に座った。
「……あんな、」
「ん?」
「……俺、子供苦手やねん。」
そういって恥ずかしそうに頬を赤らめているユウジ。
いや、まあ知ってますけどね。
「う…うん、それが?」
「………せやから、俺…子供の扱いって、よぉ分からん。」
「……うん。」
「何か…白石みたいな子供やったら踏み倒しても死ななさそうやけど、
謙也とかめっちゃ純粋やろ。」
「……。」
「………どう、扱えばええか…わからんねん、」
そういってユウジは髪の毛をくしゃくしゃにして恥ずかしそうに湯船に顔を沈めた。
…いや、そんな恥ずかしがることなのだろうか。
見ているこっちは可愛くて仕方ないんだけど。
「…傷つけて、泣かせてまうかもしれんから、
どうすればええか分からんねん」
「……ユウジ」
「………それに、あんなちっちゃくてチョロチョロしとって…。
…ほんま、俺どうすればええか、」
バシャッ!
「わわ?!何すんねん!」
「何しけた顔してんの。
…子供に怖がってる暇あるなら、ぶつかって泣かせればいいじゃん。」
子供に不器用なことは知ってるよ、私は。
けど、だから関わろうとしないだなんてやめて欲しい。
…不器用だからこそ、子供を知ろうとしてほしい。
好き嫌いが激しいユウジだからこそ心配だけど、
きっといつか好きになってくれるだろうし。
「……変なこと言って、悪かった」
「…ん。別にどってことないよ」
その後、私達は他愛もない会話を繰り広げた。
10キロマラソンの途中、謙也が崖から転落しそうになったこととか、
小春のカツラが風に乗って飛んでいってさがしにいったこととか。
…この子たち、なんだか将来が心配になってくる。
「(まあ…ユウジがなんだかスッキリしたような顔してるし、いっか。)」
なんて横で笑っているユウジの顔を見てそう思ったりもした。