「――はぁ、学校つかれた。
いやんなっちゃうわ。」
そんなことをぼそぼそ呟きながら私はジャージ姿で一人寂しく下校。
――でも寂しくないんだ!
だって、私のカバンにはテニプリの漫画が必ず入ってるんだ!
「……はぁ、いいなあ…。
会ってみたい…」
『その願い、叶えましょう』
「……っは?」
どこからかそんな声が聞こえたような気がしたけど――。幻聴か。
私ももう歳なのかな、幻聴きこえるなんて相当だよなあ。そんなことを思いながら漫画を取り出してページをめくる。
「……こんな人たち、学校にいないもんなあ。」
テニプリの彼らみたいに魅力的な人は、正直いって今現在学校にいない。
…なんだろう、このアニメとの格差。
マジいきてぇ!いけるもんなら氷帝いきたいよ、氷帝!
「……日吉かっこいーい。」
バカみたいに日吉の演武テニスとやらに見入る。
はぁ…そういえば私ももう日吉より一個年上なのか。
変な感じ。
と、一歩前に進んだ時にふっと態勢が崩れて前のめりになる。
「って、ええええぇぇぇえ!」
なんででっかい穴あんの?!
ここ不思議の国のアリスじゃないんだよ、ばかやろー!
こんなところ落ちたら死ぬだろーが!
工事のおじちゃんか誰かが注意書きの標識とか置いてかなかったんだろうなあ。
まったくもう、危ないったら危ない。
「ふぅー…落ちるところだった。」
『落ちればいいじゃないですか』
「はぁ?」
そういって後ろを振り返ると――。
ニッコリと微笑むフードをかぶった男がいた。
その男はにっと口端を不気味に吊り上げると、
意図も簡単にどんっと私の背中を押したのだった。
「って、嘘ぉおおおぉおおぉ?!」
『いってらっしゃい。……よい夢を。』
男のその言葉を最後に、
私の体は大きな穴の中にへと落ちていったのだった…。
「いやああぁぁあぁぁぁああ!!」
落ちる落ちる落ちる。
ちょ…私暗所恐怖症だし、高所恐怖症なんだよ!
ついでにいえば閉所恐怖症なんだよ!
一人いや!つかここどこ!
いつになったら地面につくの、っていうか地面についたら私死亡フラグじゃないの?!
――あぁ、神様仏様跡部様。
私どうなるの…?
こんなところで死ぬの?
あんなよく分からない穴に、あんなよく分からない男に突き落とされて?
「(…私の人生短かったなあ。)」
考えればあっという間だったような気がする。
幼稚園小学校、中学校ってあがって――。…友達もたくさんいて。
せめて家族ぐらいには、お別れの一言はいいたかったけどそれは叶わない願いなのかもしれない。
「(きっと、この下は地面で私は落ちてぐしゃってなるんだろうなあ。)」
えらく冷静にそう分析する。
――これも運命、というやつなのだろうか。
…あぁ、怖い。死ぬのが怖い。
そんなことを悶々と考えていると、下がだんだん光り輝き――。
「きゃあぁぁぁああぁぁああ!」
私はその光りに吸い込まれたのだった。
暗かったり光ったり大変だな、このやろー!
.
..
...
「ワンワンッ!」
「あーん?どうした、マルガリーテ。」
「ワンワンワンッ!」
そういうと、俺の愛犬のマルガリーテは俺の袖にくいついてついてこいと言わんばかりに引っ張ってくる。……こんな真夜中に、なんだってんだ。
おなかでもすいたのだろうか?
「…マルガリーテ、おなかがすいたのか?」
「ワンワンッ!」
必死なその様子からは、おなかがすいたのではないと察知できた。
じゃあ、なんだ?
と、その時だった――。
ドガッ!
「………っ!」
隣の部屋から聞こえた爆音。
何だ今の音は――?!
マルガリーテは俺の袖から離れると、一目散部屋をかけていく。
「あ、待て…!マルガリーテ…!」
そういって、俺も後を追うとそこにいたのは――。
「げほ…げほっ、生きてる……?」
そういって、埃まみれになった少女が荷物を尻にしいてズドンと座っていた。
……っは?え?どうやってここへ入ってきた?
俺様の家のセキュリティはばっちりだし、
そんなもん見つかれば即警報がなる。
――そのはずなのだが、
「……お前、なにもんだ?あーん?」
そういって、きっと睨みつけてやると、
そいつはこっちを見てビックリしたように目を丸めた――。
「……あ、跡部…景吾!」
「……っは?」
「本物――?!」
……なんだこいつは?
新手の俺のファンか?信者ってやつは本当にめんどくさい。狂ったやつほど恐ろしいな、本当。
「……きもちわりぃな、警備員にでも――」
そういって外へでようとすると、
マルガリーテが俺の袖をくいっとひっぱる。
「……なんだ、マルガリーテ」
「くぅーん……っ」
まるでその女を庇うかのように、マルガリーテが俺の行動を制する。
…ったく、何がどうなってんだ。
「――おい、マルガリーテ。その女は不法侵入者だろーが。
とっとと捕まえるのが妥当だろ?」
「な…!誰が不法侵入者だ…!」
そういうと、頬をふくらませてぷくーっとふくれっつらをする女。
…なんだ、不法侵入を不法侵入と認めないとはとんだやつもいるもんだ。
「…じゃあお前は何もんだ?あーん?」
「知るかっ!学校帰ってたら気がついたらここにいたんだし!」
「……っは?」
そういうと、ぽかーんとした表情で私を見る跡部景吾。
わー、やだなあ。
何でしょっぱなから出会うのがあんたなんだ。
――日吉どこだ日吉!
「ねえ、それより日吉どこ?」
「……ここは俺様の家だ。いるわけねーだろ。」
「あーなるほど。
…………っへ?」
今の私はどれだけバカ面をしているのだろうか。見てみたいけど見たくない。
――ここって…跡部の家?
いや…お金持ちってきいてたけど、ここって――。
「………ホテルじゃないの?」
「……どっからどう見ても家だろーが。」
「……………。」
これだからボンボンはいやなんだよ。親の権力を一心不乱に使いやがって…!こんなリッチな暮らししてるとか信じらんない!私の家ととっかえっこしようか、跡部!
なんて思ったけど、今の自分の立場からいってそんなことを言っている暇はないらしい。
「――それより、正直に答えろ。
お前はなにもんだ。…答えによっては、警察につきだす」
「――…っ!」
彼の目は本気だった。
…え?学校いって、いつものように部活して帰り道で――。
変な穴があって、変な男が後ろから押してきてそれで気がついたらここにいました、あはは。
…なんて誰が信じるんだろうか。
いや、でもそれが真実だ。
――だからといって、こやつがその話しを信じてくれるんだろうか。
「……いわねぇと突き出すぞ」
「……分かってるよ、」
不安な表情をしていると、マルガリーテが私のところへ来てぺろりと頬をなめた。
…っは、くすぐったい。
「ワンッ!」
「……ありがとう、マルガリーテちゃん。」
テニプリファン歴の長い私をなめんなよ。
テニプリのキャラのことなんてスリーサイズから親の職業まで知り尽くしてんだからな!もう変態ってよばれてもいい!
「……っ、お前なんでマルガリーテの名前――」
その時、私にふとある閃きがおこる。
「(そうだ…!ファンブックを見せればいいんだ…!)」
私は手元にあるリュックの中から一冊の本を取り出すと跡部に渡す。
「あーん?なんだ、これは…」
ジロジロと怪しげにその本を眺めると、ひとつのことに気付き彼は顔を歪めた。
あ…キレイな顔なのに勿体無い。と思った自分は面食いなのかもしれない。
「……なんで俺様が表紙にいるんだ。
っていうか、なんで青学のチビが…」
「……信じてもらえないかもしれないけど、本当の話しなんだ。」
そういうと、私はポツリポツリと話し始めた。