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「――っていうわけなんですけど信じてくれるわけないですよね、あはは…」

半泣きの自分。
――いくらトリップしたとはいえ、こんなの信じてくれるわけないよね…。
しかも何で氷帝の皇帝にであった!何でだ!

一番やっかいじゃないか!

そんなことを考えていると、ぽんっと公式ファンブックを頭にのせて跡部が言った。


「――信じてやる。」





「……っへ?」




「……何回も言わせんな。信じてやる。」

そういうと、跡部がふんっと鼻で笑う。
――な…なんなんだ、それ。

こんな見ず知らずの変な人を信じるっていうの…?



「な…んで、私を…?」

「……あーん?
 いっとくが、俺様の家のセキュリティは万全だ。総理大臣なみのな。

 そのセキュリティを越えて部屋へ来るのは不可能だろう。
 それに、こんな本も見せられて…疑う余地なんてないだろ?」


いやいやいや…!
なんだその自信!セキュリティ万全ってどんだけ自分の家自慢したいんだ。

…でも、跡部って漫画で見てると傲慢そうだけど
こうやって見るといいやつなんだと思ってしまった。




「…おい、何見てんだ。」

「いや、はい。あ、すみません…」

そういって私はそそくさと立つと、部屋をでていこうとする。
――ぱしっと腕をつかまれ見事に行動を制された。



「……え?」

「どこいくんだ?」

「いや…とりあえず家から出ようかと、」

そういった瞬間にぼこっと頭を殴られた。
いた…!グーで殴るか普通…?!



「アホか。今でていったら明らかに警備員に捕まっておじゃんだろーが。」

「………あ、」

そんなことも気付かないでアホなんじゃねーか。なんて文句を言われたが、確かにその通りだった。
…警備員に捕まる=警察だからね。
勝手にトリップして警察捕まって私の人生終わるなんていやだし。

…っていうか、この世界に私の戸籍とかあるわけないし、
いろいろと面倒なことになった。




「……どうしよ、」

「何がだ?」

「いや…うん、どうしよっかなって」

「……俺様が協力してやる」

「………え?」

「トリップしたなら、住む家なんてないんだろ?
 なら俺様の家に住めばいい。」

「………えぇぇええぇぇぇええぇぇ?!

ドンドンドンッ!

『跡部ぼっちゃま、いかがなさいましたか』

「じぃか。マルガリーテが悪ふざけをしているだけだから気にするな。」

『そうでございましたか。
 では、じぃは失礼します』

「…………あんまり声を荒げるな。
 ばれるだろーが。」

「……いや、はい。すみません。」

そうだった、警備員のほかにも執事とかメイドさんとかいるんだよね。
…怖いな、この家!





「……それより話しを戻すが、
 この家に住めばいい。」

「……でも、」

「金なら心配するな。
 ――どうせお前無一文なんだろ?」

そういわれ、思わずうっと言葉をつまらせる。…お金は確かに持ってきたが、所持金およそ5000円。
5000円でこの世界で生きようだなんて無理がありすぎる。



「それに、氷帝学園にも通わせてやるから安心しろ。」

「……いやいやいや、」

「なんだ?何が不満だ?」

そういって私の態度が気にくわなかったのか眉間に皺をよせている跡部氏。
いや…だって、見ず知らずの私にお金くれて学校まで通わせてくれて、それに住む場所もくれようとしているんだ、彼は。

…親の承諾なしにそんなことをしようとしているのが怖いが、
何よりそこまでお世話になると自分の道徳としての人情がうずく。

…さすがに、そこまでお世話になりっぱなしはいけない。



「……そこまで頼っちゃさ、跡部に申し訳ないよ」

「……っは?」

「だから!……そこまでされると、私も人だから…、さ。
 ………恩をどう返せばいいかとか分からないんだよ、」


そういうと跡部は目を丸めた。



「……お前、よく恩とか義理とかいう言葉知ってんな。」

おいおい、花子ちゃんなめてもらうと困るぜ。じゃなくて、それぐらい知ってますが何か。」

「……ふんっ、まあそんなもん気にするなら自分の人生を気にするんだな。」

「……その通りでございます。」

――両親がいないこの世界でどう生きろっていうんだ。
困ったもんだ。


「…まあ、私はあなたにそこまでお世話になるあれがないんで…。」

「あれってなんだ?」

「あれはあれだよ!……えーっと、義理?」

「問いかけんな。」

「すみません。」

「……それより、そんなに俺様の世話になるのが嫌なのか?」

「……………。」

嫌っていうか、嫌だよ。
お金ってバカにしちゃいけないんだよ、うん、これマジで言ってる。
まあ家に住まわせてもらうぐらいならありがたやーで住むけど、お金が絡んでくるとさすがに拒否感がある。


「……はぁ。」

沈黙に耐え切れなかったのか、跡部が溜め息をついた。


「ならバイトをすればいい。」

「……え?バイト?」

「あぁ、バイトだ。……俺様の家のな。」

「………えぇーと、いやな予感しかしないんだけどそれは何の?」

「メイドだ。」

「やっぱりそうなりますか!…いや、え。メイド?うん、メイド。うん……」

そうやって頷いていると、ぼこっと本日二回目の跡部からのグーがきました。
いてぇ。手加減してくれよ。


「……何すんの。」

「うじうじ悩んでんじゃねーよ。
 ……俺様に任せろ」

「……ありがと」


どうしよう。跡部がもう神様以上の何者かに見える。あぁ…神様仏様跡部様ってこのことを言うんだね!


「……ふん。ちなみに自給は1800円だ。」

高っ!いいの?!それ破産しないの?!」

「バカか。そんなしれた金で破産するわけねーだろ。」

……跡部財閥恐るべし!
金持ちのバイトはやっぱり違うと思った。

っていうか、バイトのお金で学費とか食事代とか払えばいいんじゃんっていう考えにいきついた私。




「……あのさ、バイトのお金で学費とか払っていい?」

「……っは?」

「…いいでしょ、別に。」


「……ふん、好きにしろ。」




「わんわんっ!」

マルガリーテが私のところをクルクルと駆け回る。
あーかわいやかわいや。


「至急制服を手配する。
 ――あぁ、それと明日あけとけよ。」

「……何で?」

「洋服とかどうすんだ。着替えとか。」

「……あ、」

本当だ。私ジャージだし…!っていうか下着とかどうしよ、
持ってるわけねーよ!

そんなことを考えていると跡部に考えを見透かされて鼻で笑われた。何か悔しい。






「…明日の学校に備えてしっかり寝ておくんだな。
 あぁ、それとお前の部屋はこっちだ。」

そういって跡部につれられてきたのは跡部のすぐ隣の部屋でございまして。
跡部の部屋並にピカピカにされていて、シャンデリアとかものすっごいんでございますよ。ベッドとかかなり高級だし、ふかふかだし。

それにシャワールームとかもついてるし、家に何個シャワールームついてんの?って問いたくなる。




「……あの、本当にここ?」

「狭いけどそこで我慢しろ。
 …お前の部屋はこれからそこだからな、我が侭はいうなよ。」

って、これがわがまま…?!
この部屋でわがままって、リッチすぎだろ…!

一般ピーポーの自分にはついていけない世界。


はぁ…くらっとする。




お父様。お母様。



私、こんな変な世界にきてしまったけど、
何とかやっていけそうな気がします。



「(一番に出会ったのが金持ちでよかった。)」



なんて欲にまみれた思いも混ざっておりますが。

トリップ→跡部家





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