その日私は疲れからか、
ベッドにダイブするとすぐに眠りについた。
……パカっと携帯を開くと、
見事に圏外。
唯一残っているのは友達や家族とのやりとりのメールだけだった。
…会いたいなあ。
そんなことを思いながら、私は静かに目を閉じた。
.
..
...
「――嫌ああっぁぁぁあ!」
「っるせぇ、静かにしろ。っていうか早くでろっつってんだろーが!」
「どこさわっとんのじゃボケエェェエ!
セバスちゃんセバスちゃん!こいつ何とかして、セクハラするううううう!」
「――セバスちゃんじゃなくてじぃだボケが!
じぃ、なんとかしろ!」
「……いえ、しかし…ぼっちゃま、」
「ぎゃあー!」
「このクソあま…っ!」
そういって私の腕を引っ張って今にも車内から引きずりおろそうとする跡部。
嫌だ!だって、だって…!
「何で赤い絨毯なの!なんで高級車なの!何でみんなの注目ひきあつめてんの!」
嫌だよ、私こういうフラグ知ってるんだよ…!
いじめられフラグ、っていうね!
跡部はただでさえ女子からもてるんだし、同じ車からでてくるのを見られれば…。
それこそ誹謗、中傷の荒らし。
外から聞こえてくる黄色い声援に、私はドン引きなのだ。
「初っ端からいじめられたくないんだよ!」
「いい加減にしろ、この我が侭!」
「むっきー!こんの金持ちが!」
「その通りだな。」
「うぜぇー。」
そんなやりとりをしているうちに、
私は間違えてドアを開けてしまったらしく、
そのまま態勢を崩してごろんと後ろへ転がって赤い絨毯に落ちてしまったのだった。
――玄関まで伸びた赤い絨毯。
に、車内から転げ落ちた私。
なんて不釣合いなシチュエーション。
というか、なんて悲惨な光景なんでしょうか。
「――…、ばかが。」
跡部の舌打ちとともに、シーンとした周囲。
と、すぐさまそれは笑いやコソコソ話、はたまた誹謗中傷の声にかわった。
「跡部様、それは誰なの?!」
「嫌ああぁあ!女よ、女!」
「……何あの子、ふざけてるっ」
一気にあびせられ、ふらりと体が揺れた。
あぁ…初日からこれって。私いじめられフラグじゃん…。
だから嫌だったんだよ、車からでるの…。
――パチンッ。
そんなことを思っていると、後ろから鳴り響く指パッチンの音。
その音がした瞬間に周囲の空気が一瞬にしてかわった。
「――こいつは俺様のいとこだ。
てめぇら、仲良くしろよ。」
「きゃー!いとこですって!」
「可愛らしいですわ!」
「お友達になってー!」
…跡部のその一言で周囲の私による見方がかわったらしい。
女子って恐ろしい…。
というか、私てきにはきっと、
女子達は『跡部様のいとこ』だから私に近づこうとしてるんだろうな。うんうん。
こんなことで好かれてもちっとも嬉しくない。
「………っ、」
クルリと後ろを振り返ると跡部がどうだ?といった顔でこっちを見ている。
どうだもこうしたもないよ、この大馬鹿やろー…!
「それより、教室へいくぞ」
「え、あ…えぇぇえ」
赤い絨毯をさっさと歩いていく跡部。
慌てて後ろから私も追いかける。
――跡部のいとこだって咄嗟の嘘でも信じてくれる女子達。
…きゃーきゃー騒いでいる子もいるが、
中にはやっぱり私のことを受け入れようとはしない女子もいるらしい。
「(視線…、視線めっちゃくる…!)」
そんな集団とは目を合わせないように、と私は下を向きながら走ったのだった。