財前光に無理矢理渡されたメアドを見て、はぁっと溜め息をついた。



『今日中にメール送ってくれんだら、ブログに写メのせますんで。




「……私、なんであんなやつにこんなところ見られちゃったんだろ。」

そんなこと言っててもしょうがないんだけどさ。



04




「さて、ブログ更新や」

一息つくと俺はパソコンをカタカタと打ってぽんっとエンターキーを押す。



『●月×日 拾いもん
 めっちゃええもん秋葉で見つけたわ、
 ほんまこれから毎日が楽しみっ。
 はよ先輩からメールきぃへんかな』




「それにしても――遅い。遅すぎる。」

先輩からメールきぃへんねんけど、マジどつきたい。





「……団子さんが…先輩なんか、」

そう呟いてふあーっと欠伸をする。
今日たまたま秋葉を歩いてたら(グッズ買うために。)、なんか人がわらわらおって、その中心あたりに俺の学校のマドンナ的存在の花子先輩がおった。

っていっても知り合いとかやなくって、ただ名前をしっとるくらいやってんけど。




「(…たまにはスリルほしいし。)」

っていうか、何よりとんでもない事実を知ってもうたからなあ。




『ねえねえ、あれ団子さん!』

『あ、ほんとだ!チャット界では有名だよな、団子さん。』

『コスプレでも神だもんなー。あー、団子さんの着てる衣装になりたい。』

『やめてよ気持ち悪いー』



そういってあははと笑う声。
……っは?え?団子さんって――花子先輩?!
んなあほな…!

チャットっていってもどんだけ幅広いとおもっとんねん。
偶然でも凄すぎるわ…。でもその偶然が起こったのはまさに奇跡。



「(…それに、先輩俺のドストライクやし。)」




――あんなメイドの格好みせられたら、
俺の中のアニメ魂が萌えてもうたからな。

ほんまもうとまらへんで。



「…ハルヒの格好でもさせよか。」

それとも、みくるのバニー姿がええやろか。
あぁ…どっちにしろ、ほんま萌える。



「せや、通販で新しい衣装とりいれよ。」






――花子に秘密があるように財前にも秘密があったのだった。



「(コスプレ…メイド…っ、萌えやー)」






「(ぞ…っ!何今の寒気…!)」

ぶるっと鳥肌をたたせると私はその考えをぶんぶんと頭をふって振りきった。

「(あーもう、こうなったらチャットしよ!
 誰かに相談するべきだよね!)」




私は財前へ何度もうとうとしたメール画面を閉じて携帯を放り投げる。

よし、チャットだ!
パソコンを立たせると、私はすぐにチャットルームへ入る。




――団子さんが入室しました。

「……おっ、白玉さん。
 ――と、誰だこれ。わかんないけどまあいっか。」

団子:みなさんこんばんはー。

白玉:こんばんはー。

団子:伊具穴さん始めまして、団子です。よろしくお願いします。

白玉:伊具穴さん超初心者やから、打つの遅いんは堪忍してあげてください。

団子:あ、そうなんですか!大変ですね。

白玉:ほんまはよ打ってや。

団子:…あはは。

白玉:…………。

団子:…………。

白玉:あれ、伊具穴さん?

団子:無言ですね…ロムってるんじゃないんですか?

白玉:そーかもしれん。

団子:じゃあ何か話題だしましょうか。

伊具穴:初めまして、伊具穴や!よろしゅう!

白玉:今頃かい。

団子:………笑。

伊具穴:うるだい!

白玉:伊具穴さん、打ち間違えてます。SやなくてD打ってますやん。

団子:まあ初心者だったら仕方ないですね。

白玉:ま、しゃーないっすわ。

団子:それより、白玉さん!相談があります!

白玉:はい?

団子:長文になるけどいいですかね?

白玉:どうぞー。

団子:今日秋葉原いってコスプレしてたら、同じ中学の人に見つかって…。挙句の果てには、写メとって『ペットなれ』っていうんです。意味わからなくないですか?




「あ、これ明らかに俺のことやん…。っぷ、先輩単純。
 やっぱかーわいい。」

まあ、俺が白玉やって気付いてないかぎりほんま信用してくれるしええわあ。



白玉:まあ、それも運命やないんすか。

団子:マジか。

白玉:GJ。

団子:意味わかんない。

白玉:それより、団子さんはペットなったん?

団子:なったつもりはないよ。

白玉:ふーん…。

団子:っていうかメアド渡されたんだけどさ、メールする勇気がない。

白玉:っは?送ればええやないっすか。

伊具穴:団子さんって誰なん?<白玉

白玉:ちょ、黙れ。<伊具穴

団子:……笑。えーっと、なんか…うん、勇気がわかない。

伊具穴:俺が送ったろか?

団子:え。ほんとですか!





「っておかしいおかしい!なんでそーなんねん!」

っていうか、謙也さん何しはってんねん…!
暇やからチャットに誘ってやったら、打つのは遅いは、HN打ち間違えてるわ…。(イグアナって打とうとして間違えて伊具穴になってんろーなあ。)

っていうか、謙也さんからメールきても全然嬉しくないし。


「(…どつきたい。)」




団子:私のふりしてメールしてくれますか?

伊具穴:かまへんで

団子:ほんとーですか?!





「ってなんで話しすすんどんねん!
 ……これはお仕置きが必要やな。」

それよりも、何とかそれだけは免れたい。




白玉:ちょっとまってください。

伊具穴:?

団子:え?どうしたんですか?

白玉:やっぱ団子さんがメールおくらなあかんとちゃいます?いくらなんでも、第三者巻き込むのはあかんと思いますわ。後、勝手に他の人のメアド教えたら個人情報保護法にひっかかりますよ。

団子:……そうですよね、すみません。伊具穴さんもすみません。

伊具穴:あー…おう

白玉:まあ、団子さん頑張ってください。メール送るのなんてチャットと同じ感じっすよ。

団子:……そうかな?なんか勇気でた、ありがと白玉さん!じゃあ私早速メールするので落ちます、みなさんさよならー!

――団子さんが退室しました。


伊具穴:なー

白玉:ん?なんですか?俺の苗字出したらぶんなぐるんでやめてくださいね。

伊具穴:おう。それよりなあ、なんか団子さん大変そーやなー

白玉:……そっすね

伊具穴:なんか同情。っていうか、チャットっておもろいな!

白玉:先輩うつの遅すぎっすけどね。

伊具穴:生意気やわー、やっぱお前!






「ふう…まあ、まさか花子先輩も、俺と謙也さんがチャットにおるなんておもわへんやろ。」


まあ、実際にはそれがおこっとれんけど。
















「よし、頑張るんだ私!」

震える指でボタンをぽちっとおす。

――送信完了の文字。




「……変なのに目つけられたなあ」

いやはやめんどくさい。実にめんどくさい。まあ、彼の携帯をうばって自分の画像消去しよう。

――それまでは大人しくペットでもなんでもやってやる。





「くそ、見てろよ財前光…」

先輩みくびってたら痛い目みるってわからせてやる。

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