海岸から少し歩いたところにそれはあった。
「ここが、わんの家でそっちがやーの家!」
そういって、裕次郎(って呼び捨てしていいんだよね)は嬉しそうに家を指差す。
…わー、飼い主の探し物を発見したわんこみたい。
まあ事実上犬だと思ってるんだけども。
わかんねーよ
「上がれよ。まあ、ぬーもねーらんしが。(何もないけど)」
「(ぬーもねーらんしが…?)あ、うん、おおきに。」
「何が大きい?」
「………。(大きいやなくっておおきになんに…)」
思わず溜め息がこぼれそうになる。
同じ日本人なんに、こうも住んでる地域で言葉の違いがでるとは…。
裕次郎だけやなくって、他の人もみーんなこんなんなんかなあ。
「あー…まあ、うん。
せや、比嘉中ってどんなとこなん?」
「比嘉はいーとこだばあ。
けど、先生は気性があれぇな、まあわったーの顧問がいい例。」
「……あ、そうなんだ。」
そういえば、裕次郎もテニス部なんだなあ。
何の縁か知らないけど。
それを白石に言ったら、『花子。お前にスパイという任務を命ずる。』とか言われたけど知らんわっ。
――これから敵になるんにこっちの弱点教えられっか!…せやけど、
もし…もし万が一、比嘉と四天宝寺が戦うことになったら、正直比嘉だけを応援なんてできん。
…四天宝寺は、私の故郷みたいなもんやからほんま困る。
「そーだそーだ!
やーはわーと同じクラスで、凛とも一緒だばぁ」
「……凛?(女の子?)」
「凛は金髪のロングで、わーといつも一緒にいるっさー。
明日紹介するから、楽しみにしてろよ」
「(…金髪のロングって外人?!すげーすげー!沖縄の方言についていけてるのかなあ、心配…。っていうか、もしかして裕次郎の彼女とかなのかな?)
凛ちゃんって可愛い?」
「おう、可愛いしちゅら(美しい)からモテモテだ」
「へえー…お友達になれるかな、」
そんなキラキラしたお友達、
私にできますかね。つーかモテモテって…!
わー、絶対裕次郎の彼女だ!
学校でいつも一緒にいて、金髪のロングヘアーの可愛いモテモテさん…。
どんな人なんだろ、きっとフランス人形みたいなんだろーなあ。
「(楽しみやなあ。)」
「花子もすぐに慣れるさぁ。
比嘉中に。」
そういうと、裕次郎がニッコリと笑う。
あ…。
今のくしゃってなる笑顔、可愛い。
なんやろ、なんかこの人可愛いわあ。
〜〜〜♪
と、急にかかってきたKYな着信音。
「…誰や、こんな時に。」
携帯のディスプレイを見ると、『白石蔵ノ介』の文字が浮かび上がっていた。
あー…こいつほんまKYや。
「ごめん、ちょっと電話でるけど気にせんといてな。」
「あ…おう」
ピッ。
『花子元気かー』
白石の気のぬけたような声をきくと、何故かほっとして体中の緊張が解けたような気がした。
「…元気やけど。」
『ならよかった。っちゅーかお前さっきのメールなんでかえさんねん。』
「めんどうやったから。っていうか、あんなボケ誰もつっこまへんで。
ほんま白石空気よめねー。」
『花子しばきてー。』
「このKYS」
『……っは?』
「空気(K)読めてない(Y)白石(S)。」
『アホ!
かっこいい(K)やんか(Y)白石さん(S)の間違いやろ!』
「うわ、めっちゃ無理矢理!
真ん中のYむっちゃ無理矢理や!」
『うるさいわ、ほんまお前は沖縄いってもかわらんなー。』
「まだいったばっかやんけ。」
『あ、それもそーか。』
…けど、正直言えば四天宝寺のみんなと離れてもうだいぶ過ぎたように感じる。
ほんの数日程度しか会ってないのに、もうこんなに距離を感じるなんて…。
――もしかしたら、白石もそうなのかもしれないと思ったら少しだけ嬉しくなる。
『あ、せや、比嘉中はどーや?』
「いや、まだ学校いってないしわからへんし。
あ、ちなみに隣の家の人テニス部やねんで!」
そういって裕次郎のほうを見ると、ぱちっと目があった。っわー、なんだそのドールアイ。目くっりくり。
『なんやとぉおおおぉぉおお!あかん、お前不純異性交遊はあかんで』
「誰がいつした。」
『現在進行形で。』
「どたまかちわろか。」
『はは、冗談やって。…で、ちなみになんて名前?』
「甲斐裕次郎。」
そういうと、電話のむこうの空気がキーンと凍ったような気がした。
はい…?私変なこといいましたか…?
「もしもーし?」
『……甲斐、裕次郎…?っは?!甲斐裕次郎ってレギュラーやんけっ!』
そう叫ぶ白石の声を聞いてか、
後ろから裕次郎が私の携帯をとって白石にむかって言った。
「よぉ白石」
『……甲斐君か?』
「当たり。…そっちは、ちゃがん?(元気?)」
『……ガン?俺ガンなってないで、めっちゃ元気や。』
「おー、ならよかったよかった。
それなら大会でいつ当たっても倒せるだばぁ」
『はは、倒せるもんなら倒してみ』
「言っとくけど、比嘉はちゅーばー(強い)」
『(ちゅーばー?婆?中くらいの婆?)え?
中くらいの婆さんがどしたん?』
「っは?」
『え?』
――あかん。こいつら話しまったく噛みあってない。
やばい、こっちがめっちゃ笑い堪えてしまってる。
ぶ…ぶふふ、やばい、白石の困ったような表情みたいけど会えないことが残念。
…っていうか、さっきのちゃがんで見事に話し噛みあってないんに話し進んだからビックリしたわ。
どっちもどっちやな。
「……花子、向こうは何を言ってんだ?」
「あぁ、白石は頭おかしいから気にしないでいいよ。」
『おい聞こえとるで花子。』
「すみません嘘です冗談です。」
『よろしい。』
そういって少しの間白石と他愛ない会話をしてから電話を切った。
最近の四天宝寺は私が抜けてから少しだけ活気がなくなったらしい。
小春とユウジの漫才のギャグのレベルが少し落ちたり、
金ちゃんがたこ焼き食べたがらなかったり。
まあ、一番びっくりしたのがあの財前がコートでぼけーっとして頭にボールがあたって保健室にいったこともあるとかとか。
……みんな、どないしてん。
やっぱり私が恋しいのか。
それなら仕方がない、なんてぼけたら白石に『死ね。』言われたからもう言いません。アハハ。
「なー」
「んー?」
「白石ってさ、」
「んー。」
「やーの彼氏?」
「………っは?」
いやいやいや、裕次郎何言うてんの。
視線でそう合図したら、彼は?を頭に浮かべながら小首をかしげた。
いやいや…彼氏ちゃいますけど。
「…そんなんやないよ」
「……ふーん。っそ。」
「え、何その態度」
「ん?なんとなーく、気になっただけさー」
そういうと、裕次郎はすっと立って「クッキー持ってくるから待ってろよ。」といって部屋をでていく。
……何か、
意外な二人の会話がきけただけで結構満足だったりする。
っていうか、やっぱ関西と沖縄の方言対決がほんまおもろい。
とにかくおもろい。
「(あーでもやっぱ沖縄弁わからんわ。)」
なーんて頭をひねったりもした。