あの衝撃的な告白から、
みんなと言葉を交わす言葉が極端に減った。

――私が避けているのか、みんなが私のことを避けているのか。
はたまた両方なのかは分からない。

…だけど、一人ひとりが確かに別れの時間を痛感していたのだった。

究極の結末



「――でありまして、本日をもってこちらの先生方が本校を去っていきます。」

校長先生の司会により話しが進行する。
――私はというと、
壇の上に上がってパイプイスに座ってただ呆然としていた。


…いつもはうるさくて校長先生にどやされている2−Aが
珍しく静かに座っている。


「(まさか寝てるんじゃないよね。)」

そう思って凝視してみると、
誰も寝ている人物はいないみたいだった。

「(…珍しいなあ。これを授業に何故いかしてくれなかったんだろ。)」



…特に千歳とか千歳とか千歳とかね。
授業中寝すぎだったもん、彼。




「(今頃世話やいても仕方しゃーないか。
 あ、しゃーないっすわだった。)」

何財前の決め台詞言ってるんだろ。
…私、ちょっと四天宝寺にはまりすぎたのかもしれない。




「――ぃ、先生………田中先生?」

「は、ははははい?!」

そういって立ち上がると、
周りがクスクスと笑った。

ははは恥ずかしい…!



私は真っ赤な顔をあまり見られないようにしながら、
マイクのところまで歩くとスタンドを喋りやすい位置にさげる。

…一生で一度とない晴れ舞台だもの。

言いたいことは、全て言おう。
全てぶつけよう。

全て…全て、彼らに届けなくちゃ。




「えー…今日をもちまして、
 県外の中学へ行くことになりました2−Aの田中花子です。
 受け持っていた教科は音楽です。」


――こうして考えると、
いろんなことがあったなぁ。


忍足がピアノ弾こうとして指はさまれてたり、
遠山が木琴叩いたら一発でバチが壊れたり。


…懐かしい思い出たち。




「……私は、本当にいい生徒を持てたって思っています。
 本当に…本当に、自慢の生徒達です」


もっといわなきゃ、もっといわなきゃ。

伝えたい言葉は山ほどあるでしょう?



――そう思っても、
体が…足がガクガク震えて立つのでやっとだった。

…伝え…なく、ちゃ………っ





「――花子先生っ」

白石のその優しい声で、
はっとした。

――イスに座っている2−Aのみんなは、
笑顔で私のほうを見ている。

胸に何か熱いものがこみ上げてくるのを感じた。





や……だ、まだ…まだ、みんなとやりたいこと…ある…。
まだ、いたい……っ。




ポロッ。


ポロポロッ。


こぼれてくる涙を両手で覆う。
あー、恥ずかしい。
全校生徒…および他の職員の前でこんな姿を晒すなんて、私どうかしてる。




「――こんな別れって、ないで」

そういうと、忍足が壇上へ上がってきた。




そしてマイクを奪い取ると、
校長先生を指差して言う。



「まだ――まだこの先生は俺らの先生や!
 どこにもいかせへん!」


「こら、忍足!今すぐ壇上から――「…謙也さんの邪魔せんといてください。」


怒った教頭のマイクを奪い取る財前。
――この騒動に誰もが目を丸くした。



「花子先生…大丈夫とね?」

「……あ、あんた…たち……」


「ワイらにはやっぱ花子先生しかおらんねん!」



…なんなんだよ、みんなして。
なんなんだよ…何で、そんなこと…。




「……校長先生、
 悪いけど俺らの担任は花子先生だけや。」

謙也からマイクを奪うと、
白石が校長先生に向かってそういう。

――少しざわついていた空気が、
白石が喋ることによって一瞬にして静まった。




「……俺らの卒業式を誰よりも近くで見て、
 誰よりも泣いてくれるんはこの先生だけや。

 …な、花子先生?」


そういって白石が笑った。



――何だよみんな卑怯だよ。

これじゃあ…かっこよくお別れなんて言えやしない。





「みんな………っ」






「田中先生、こっち見てください」

感動でぼろ泣きしているところで、
校長先生が何か用紙を片手に指差す。




「……えーっと、"ど……っ、き……り"?」


「いやはや、全く予想外の展開でしたなぁ。
 …2−Aがここまで食いついてくるなんて。」


そういって、
ほっほっほとない髪の毛(じゃなくて頭か。)をポリポリかいて喜んでいる校長。



「……と、いうことはというと?」


「全部嘘ですよ、嘘。」




「「「「「「「なぁにぃぃいいぃぃいいいぃ?!」」」」」」」


鼓膜が破れるんじゃないかというほどの2−Aの叫び声が館内に響いた。





「校長、いいものがとれましたね!」

「ハプニング大賞に明日にでもだしましょう。」

「ですね!」

そういって教頭が嬉しそうにビデオカメラを止めた。
…ちょ!どこでそんなものまわしてたんだよ!



っていうか感動を返せよ、このやろぉぉおぉ!





「は…ははは、よかったんやよな、小春…?」

「せ…せやね、ユウ君。
 ――あたしらの上を行くギャグセンやわ…」


「……まあ、何はともあれよかったやん。
 花子先生。」




…………。


全然よくなーい!


とか思ったけど、
内心すっごく喜んでるよ!
ハプニング大賞?とかいうので出すとかいってたけどさ、
みんなと別れることと比べればそれぐらいどうだっていいとさえ思えてしまう。



「…みんな、」

そういうと私は涙を拭いて顔をあげて言った。









「もう1年よろしくね!!!!!!!」








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