――勘違いをした謙也を探しているのだが、
見つからない。
「……どこなの、謙也…っ」
手当たり次第探すしかないのだろうか。
謙也を探せ!
音楽室をがらっとあけてみるが、誰もいない。
――まさか隠れているわけもなさそうだし…。
「……謙也、」
どこいったの、謙也…。
「って、あれ。あんたって――」
「………えっ」
音楽室へ入ってきた誰かは、
私を見るとあーっと納得したかのように頷いた。
「田中花子さんや。」
「……?何で私の名前を?」
「謙也さんが花子さんの話題ばっかしてきはるんすよ。
…本物とは初対面やけども。」
そういうと、
黒い髪の不良少年がにこっと笑った。
…謙也。何の話題してんだ、謙也。
「……あ、あのね。謙也見なかった…?」
「謙也さん?……見てないけど、
どうかしはったんすか?」
「それがね…喧嘩しちゃったの」
「……喧嘩?」
「何か…うん、お互い色々と擦れ違って、
誤解して喧嘩になったっていうか――」
「……ふーん。」
そういうと、少年は制服のポケットから携帯を取り出すとぴっぴと簡単に指で文章をうっていく。
「………よし、っと。」
「………?」
「花子さん、いてください。
じゃあ、俺はお邪魔なんでどっかいきますわ」
そういうと、少年はヒラヒラと手をふりながらどこかへ去っていってしまった。
………?
ここにいろっていわれたけど、
一体どういうことなんだろ…?
ガラッ!
乱暴に開かれた扉から、
怒鳴るような声が聞こえてきた。
「財前、生きとるかあぁぁあぁぁぁ!」
「……あ。」
「――え。」
飛び込むように音楽室へ入ってきた謙也だが、
私の顔を見るとビックリしたように目を見開いて――それから、
軽蔑をするかのような瞳で私を見た。
「………。」
「あ、ちょ、待って――!」
何もいわずに出て行こうとする謙也の腕を引っ張って止めた。
「……何ねん、今更…。」
「謙也…、あれは…誤解なの!」
「っは?」
お願い、信じて!謙也…っ!
「チューしただけで、子供はできないんだよ!」
「……………なっ!んなアホな?!」
謙也はビックリしたような顔で、
私を見てくる。
白石の話しを間にうけて、本当に可哀想。
「じゃ…じゃあ、何で金太郎と――?」
「あれは!……謙也が、
キスはしばらくできないみたいなこと言ってきて、
ショック受けて遠山君に相談してもらってたの。
んで、泣いちゃったのを遠山君が仕方なしになだめてくれてたのっ!」
「――はぁぁああぁぁ?!」
顔を真っ赤にして私を見ている謙也。
やばい。
こっちまで顔が真っ赤やっちゅー話しや!←
「……じゃあ、俺は…今まで勘違い、しとったん?」
「……そうです。勘違いしてたんです。」
「………白石にはめられたっちゅーことなん?」
「そうです、白石にはめられたんです。」
「あのやろぉぉおおおぉぉ!」
そういって、教室を走り去ろうとする謙也だが、
私のほうを振り向いて言った。
「………誤解してすまんかった。
――好きやで、花子」
「あ――…っ」
ダダダダダッと大きな足音を立てて走り去っていく謙也。
…なんなの、最後の捨て台詞!
好きだなんて恥ずかしすぎで照れるっつーの!
「……謙也さん、いっちゃいましたね」
「あ……さっきの少年」
携帯をちらつかせながら、
さっきの少年が扉から顔をだした。
「……さっき、なんてメール送ったの?」
「……はい」
そういって、少年は私に携帯のディスプレイを見せてきた。
送信者:財前光
件名:音楽室に!
―――――――――
先輩、大変っすわ!
音楽室にテロリストが…あぁぁああぁぁぁあぁ!
―――――――――
「………。」
「どうっすか。謙也さんちょろいんで、
これぐらいの内容で余裕でかけつけてくるんすよ」
そういって、にかっと笑う。
「……じゃあ、お幸せに」
「あ…。」
少年はお礼をいうまもなく教室を出て行った。
「(…謙也、ちょろいな。)」
お前…学校にテロリストなんかくるわけないだろ。
本当…すぐなんでも信じ込んじゃうんだからなあ…。
「…でも、そこが好き。」
私は、ひとりぽつんとそう呟いた。