「――あー、何やっとれんろ。俺……」
『…ユウジ。花子のこと好きなんやろ?』
『んなわけ――』
『なら、俺がもらうで』
『…………っ!』
あーあ。何俺手助けしとれんろ。
『……あん時は、つい…自分の口が滑って、
お前に部活やめいってもうたけど、
あんなん…マジにとんなや。
テニス部には――…花子には、お前がおらんとダメねん』
『………おん。』
『分かったなら、やるべきことは何かわかっとるやろ?
ユウジ。――もう、これ以上俺を使わすなや』
そういうと――。
ユウジが今までに見せたことのないような笑みを俺に見せた。
なんか…何かやっぱ悔しいけど、
俺の完敗やな。
「あ、白石。俺に練習せぇ言うといて何ぼーっとしとんねん!
なんならダブルスでもしてやってもえーよ!」
「って、謙也が何いばっとんねん。
………でも、ええな。久しぶりにダブルスやりたなったわ」
そういって俺はラケットを握り締めると、
コートへと駆け出した。
……今は泣きたい気分だが、
男が泣いたらあかんもんな。
「対戦相手は小石川と銀さんや!」
「っぬぅ?!」
「……白石。何か…ビジュアル的な格差社会や。」
「かっこよくなくて悪かったな…」
そういって、小石川がメソメソと泣き出した。
あー、なんやこいつ。ほんまめんど。
めんどいけど…この部活が、俺にはたまらなく楽しい。
届け、俺の想い!
「……返事、聞いても…えぇ?」
そういって、小首をかしげるユウジ。
――ユウジって、天然なのか鈍感なのか毒舌なのか…。
つかみどころがない。
それが…ユウジなんだろうな。
――答えなんて、聞くまでもないじゃん。
「……好きに、決まってる…っ」
「………」
「ずっと…初めて出会ったころから、
ずっと…ずっとユウジしか見てないよ……っ」
諦めていた一目ぼれの恋。
――時にはブン太に、時には蔵に、気持ちが揺れながらも
私は…道を外れずに、ただ一本の道だけを歩き続けた。
その終わりがどこにあるかも分からずに――。
「……俺なんかの、どこが…っ」
「それ…蔵にも言われた。
けど――正直、わかんないよ。
ぶっちゃけユウジは女嫌いだったし、小春にベタベタだったし…。
どれだけ頑張っても、障害があって乗り越えられなかった。」
「………おん。」
「擦れ違って空回って…。
苦しくて、思いをぶつけたりして。」
「………おん。」
「キス…されて、やっぱり諦めきれなくて…。
私には、やっぱり…ユウジじゃないとダメなんだ、って思った。」
「………花子」
そういうと、ユウジが私をぐっと引き寄せて抱きしめてきた。
ぎゅっと、強く。強く――。
「……もう、言葉はいらへんよ。
ただ…今は、花子を感じたいねん…っ」
そういうユウジの言葉に、
私は目を瞑った。
「(……大好きだよ、ユウジ)」
「(離したりなんか、せぇへんからな。)」
.
..
...
『うっわー、ノロケてんじゃねぇぞ。
ボス猿ごときが』
「うるさいわね!いいじゃん、ノロケたって…!」
受話器越しのブン太の顔は見えない。
――ユウジと付き合ったことを報告したら、
『よかったじゃん!』と喜んではくれたが――。
顔が見えない以上、何を考えているかはよく分からない。
けど…けど、これでいいんだ。
ブン太の顔を見て報告したら、
なんだか…気持ちが揺れてしまいそうで怖くなる。
『……あーぁ。俺ももっとアタックしときゃよかったかな』
「あはは。……いい恋、ブン太もできるといいね」
そういうと、
ブン太の声が明るくなった。
『………おう!』
――私は気付いたが、気付かないふりをした。
…そのブン太の声が、
無理をして明るくだしていることを。
…震えていたことを、
私は見てみぬふりをした。
「(…ブン太。こんな私を…想いつづけてくれて、ありがとう。)」
心からそう思った。