「ねぇ、ユウジ。
私の彼氏になる気はないの?」
「何回も言うてるやろ…!
俺は、お前と付き合う気は――」
そういいかけた時だった。
葛城は、近くにあった植木鉢を手にとると、
面白そうに窓の下にいる人物を見下ろす。
「……あ、っそ。
――たとえば、この植木鉢。
落としたら、どうなると思う?」
葛城がそう言った瞬間、
何故だか凄く嫌な予感がした。
「やめ――」
そういった時には、
葛城の手には植木鉢はなかった。
傷つけたくない人(一氏視点)
慌てて窓から地面を見下ろすと――。
花子を守って倒れている白石と、
痛そうに腰をさすっている花子が見えた。
……っほ。よかった。
――せやけど、
なんで…何であの2人が一緒におるんやろ。
「……………。」
「……ねぇ、ユウジ。
私と付き合わないなら私…何するかわからないけどいいの?」
そういって、笑う葛城。
――それよりも、
2人が一緒にいたことが何故だか胸が苦しくなって。
もうどうでもいい、といったような感情が自分のどこかに芽生えた。
「……おん。
せやけど、条件がある。
――花子に手出さんっちゅーことや…」
俺は、
葛城と条件つきの恋人ごっこをすることになった。
…本当やったら、
何いわれたって彼氏になんてなるつもりはなかった。
せやけど――。
何でやろな。
何か…悔しかってん。
花子と白石を見て――。
.
..
...
「ユウジー!」
「………おん。」
適当に返事をする。
――クラスは、俺らの話題でうるさかった。
『女嫌いの一氏が?!』『田中さんやなかったんや!』『彼女?!誰誰?!』
「……あー、うっとぃ。
本当うっとぃわ。」
マジでみんなうっとぃわ。
さっさと散ってくれへんかなあ。
「……ねぇ、ユウ君」
「………小春」
「ユウ君……ユウ君の彼女って――」
「おん。こいつや」
そういうと、
ビックリしたようにかっと目を見開く小春。
そして、
手を上に挙げると――思い切り俺の頬にビンタをした。
「ユウ君……。
あんたね、あんたってやつは……!」
「――おぉ?!モーホー同士が喧嘩しとるで!
一氏に彼女できたことにマジ切れしとるんかいや〜」
「「「「あはははは!」」」」
誰がモーホーやねん。
笑いとしてなら最高の褒め言葉やろーけど、
そんなん…嘘にきまっとるやん。
「……花子ちゃんはどないしたんよ」
「…………。」
「………見損なったわ」
そういうと、小春は教室からでていった。
クラスメイトは俺と小春を交互に見比べている。
――なんで、花子の名前があがんねん。
何の関係もないやんか。
「……なぁ」
「ん?何かしら?」
「……お前の目的って、なんねん」
そうきくと――彼女はにやりと笑う。
俺は、こいつのこういう顔がたまらなく嫌いや。
なめくさっとるわ。ほんま。
「ユウジとずっと一緒にいること。」
「…………」
「ずーっとずーっと……一緒にいようね。ユウジ」
頭が痛くなりそうだった。
…あかん。
誰かに相談したい。
せやけど、誰にも相談できん。
そんなとき、
教室の前を花子と白石が通った。
『ユウジー!購買いく?!』
いつもは、そんなふうに俺のクラスよっていくんに
見向きもしない。
……完全に、呆れられたんやろーな。
「………幸せに、」
花子。
――お前が幸せになるためには、
俺がおったらダメなんや。
俺がおったら――…葛城が、
お前を傷つける。
せやから、一緒におったらダメなんや。
「………っ、花子」
あぁ、アホやな、俺。
――今やっと自分の気持ちに気付いてもうた。
…もう遅すぎたな、自分。
花子も自分も、
別々の道を進みだしている。
……白石。丸井。
どっちとくっつかは分からんし、
はたまた全く見知らぬ誰かとくっつくかもしれん。
――せやけど、幸せになってほしい。
花子。
俺、やっと気付いたんやで。
何で花子に触れるんか、まともに顔見て話せるんかも。
アホみたいやろ、俺。
…どうしてなんやろ。
お前を見ていて胸がぎゅっと苦しくなるんも、
切なくなるんも――。
……これが、小春の言うとった"恋"なんやろな。
きっと。