『おーい、花子!こっちこっち!』
『あ、ブン太!待ってよ!』
『…花子。そんなはしゃぐと転ぶぜよ。』
――ドサッ!
仁王に注意された直後に転んだ自分。
嫌だな…恥ずかしい。
『…ほら、言うた通りじゃろ。全くアホな子じゃのぅ、花子は』
『う…うるせ!じゃあ仁王は転ばないの?』
『おう、転んだことはないぜよ』
なんだよ、それ。
じゃあ赤ん坊の時は仁王は転んだことはない、っていうことなんだよね。
『あー、ったく…しょーがねぇな、ほら…手、かしてやる』
そういって――ブン太が右手を差し出してきた。
『あ…ありがと……』
そういって、手を掴むと、
ブン太の背後には立海のみんなが立っていて。
やけに優しく微笑んでいて――。
私はなんだか、それが凄く嬉しくて仕方がなかった。
夢
「………。」
パチッ。
目を開けると――。
まず目に飛び込んできたのは白い天井だった。
「花子!目、覚ましたんか!」
次に聞こえてきたのが蔵の声で。
私が蔵のほうを振り向く前に、蔵が私の体を抱きしめていた――。
え…?
なんだ、この状況。
……さっきの立海のみんなとの映像は、
夢…だったんだ。
「ここ…は、」
「……病院や。
花子…体は、大丈夫か?」
っは、そういえば私イスに縛り付けられたままプールに沈められて…!
ってなんで生きてるんだ?!
「私…生きてる?」
「…あぁ、ちゃんと生きとるで。
ほんま…ほんまに、よかった…」
そういう蔵の体が震えていた。
……蔵?何で震えているの?
「……蔵?」
「……なんやねん、お前…目さまさん思ったやんけ」
「……どれくらい寝てた?」
「一週間近くや」
――そんな長く眠ってたんだ、私。
「……警備員のおっちゃんが見つけてくれんだら、
花子…死んどったかもしれん」
「…………」
「……ほんま、生きとって…よかった……っ」
何故かは分からないけど、
私を抱きしめている蔵が泣いているような気がして――。
まともに声をかけることが、できなかった。
「…ほんま…ごめんな、俺の不注意で……っ」
「………蔵、」
「もう…こんな目にあわせんように、
俺が…俺が、花子を守るから――」
そういう蔵の言葉が痛いほど胸に伝わってきて――。
…私は、顔を歪めた。
.
..
...
「…………。」
「ユウ君!ユウ君、待ちぃ!」
そういって、小春が
慌てて後ろから追いかけてきた。
――小春。
「………待つもなんも、
俺に何の話しがあんねん…」
「……おおありやわ、ドアホ!」
そういって、後ろから小春に飛び蹴りされた。
ドガッ!
「い…っ!何すんねん、小春――!」
「アホ、馬鹿一氏!
蔵リンの言うたこと何本気にとらえとんねん!」
「………っ、せやかて、俺は――」
確かに白石の言うとおりやった。
…俺が、花子に葛城のことを全て暴露してしまった。
それが原因で…花子は葛城になんかされた。
それしか思いつかんだ。
…他に、誰が花子をあんな酷い目にあわせられんねん。
本気で人を殺そうと思える人物――。
すなわち、葛城益子しかでてこなかった。
「……俺さえおらんとけば、
最初からこんなことならんだんや。」
「…………」
「葛城だって、もっとええやつと出会えて性格狂わんだかもしれん。
それに、花子だって――。
俺さえおらんとけば…こんな風には、」
「……ユウ君。
本当に…そう思ってるの?」
そういって、小春がじっと俺の目を見つめてきた。
……何で、そんな顔すんねん。
――小春っ。
「確かにユウ君がおらんとけばなんも起こらんだかもしれん。
せやけどな、
花子ちゃんはちゃうで」
「………、」
「花子ちゃんは――ユウ君がおったから、
立海から四天宝寺きても笑顔でおった。
そうやろ――?」
「……そんなわけ、「そんなわけあんねん!何できづかんの?!」
……気付く、って。
何に…ねん。
「花子ちゃんはユウ君のこと――」
「…………っ」
「…ユウ君のこと………っ」
「やめや…小春。
花子には…白石や丸井がおるやん。」
そういうと、苦しそうな顔をする小春。
「せやから、何でマイナス思考にしか考えんねん!
ユウ君やって、自分の気持ち気付いとるんやろ――?!」
「……小春、」
「ユウ君は花子ちゃんのこと――「小春!」
そうやって大声をだすと、
小春がビックリしたように目を見開いた。
――これ以上、気付かせんでほしい。
なんも…何も、知らんほうがええねん。
「……ユウ君「お笑いも解散やな。――さよなら、小春」
そういって、
俺は足早にその場を駆けた。
――小春が俺の後を追いかけてくることなどなかった。
……本当は気付いとんねん。
自分の気持ちも、
花子の気持ちも――。
「……素直になれ、っていうほうが…無理な話しやわ。」
叶っちゃいけない恋もある。
――…たとえ、
どんなに愛し合っていたとしても。
「……好きになったら、あかんのや」