〜♪〜〜〜♪
「……あかん。
何回電話してもでぇへんし。」
おっかしいなぁ。
花子のやつ――。居留守でもつかっとるんか?
いや、んなことはあらへんよな。
「謙也、何でやと思う?」
「っやー、俺に聞いてもしゃーないやろ」
…謙也に聞いたことが無駄だったか。
あー…部活そろそろ終わるんに、
花子はどこで何しとんねん。
消えいく意識の中
「こんにちは、田中花子さん」
そういって――。
にこやかに微笑みながら、葛城が水泳部の部室の扉を閉めた。
「……あなたが、これを?」
「えぇ。私がしたの。」
「……何で?」
「――田中さんのこと嫌いだから。」
あー、なんだそれ。
嫌いだったらイスに固定して縄でぐるぐるまきにするのか。
小学生だってそんなことしないっつーの。
「……これ、外してよ」
「外してっていって外してあげる馬鹿なんているわけないでしょ?」
――ですよねー。
外してなんていって外してくれる悪人なんて
見たことがない。
…妙に落ち着いている自分。
何だろう。
葛城さんの裏の顔をユウジに教えてもらってるから、さほど驚かないのかな。
いや、何が起こったっておかしくない――。
その覚悟が、少なからず自分にはあった。
「……あのさ、葛城さん。
私言わなくちゃいけないことあるんだ」
「……何かしら?」
「――ユウジを、解放してあげて」
そういうと、
葛城さんはまるで私のことをゴミのように見て笑う。
「……っぷ。
嫌よ。ユウジは渡さない」
「……っ何でそこまでしてユウジにこだわるの?」
「………あんたには、関係ないでしょ」
「――葛城さん。
あなたはユウジのことが好きなんじゃない」
――ユウジの話しを聞いている限り、
葛城さんが好きだったのはユウジじゃないように感じられた。
「……あなたは、
ユウジのことが好きなんじゃなくて、
いじめられたくないから…ユウジを求めてるんでしょ?」
「………うるさい」
「ユウジがいなくなったら、
また自分がいじめられるって怖くて怖くて仕方な「うるさい!!」
ドンッ!
葛城さんが、
私のイスを思い切り押し倒した。
その反動で私はイスごと後ろに倒れる。
ゴンッ!
「――…った!」
本日二度目の後頭部への衝撃。
…頭ばっか殴られて、
いつか本当にパーになってしまいそうだ。
「……あんたなんかに!
私の…私の何が分かるっていうの?!」
ッグ。
両手でキリキリと私の首を絞める葛城さん。
――…あっ、ダメだ。
意識が朦朧としてきた――。
と思った瞬間、
葛城さんの手が首から離れた。
「……ゲホッ、は……ぁ、はぁ……っ」
乱れる呼吸。
少しずつ取り戻していく視界。
――まともに前を向くことさえできない。
「……いいこと思いついちゃった」
そんなことをいいながら、
葛城さんはか弱そうな見た目とは裏腹に――。
私のイスをズルズルとひきずるようにして、
部室の外から出た。
――私は、
その瞬間冷や汗をたらした。
…まさか、ね。
まさかそんなこと…するわけ、ないよね?
「……冗談、でしょ…?」
「冗談に見える?」
そういって――。
葛城さんがニヤリと黒い笑みを浮かべた。
ダメだ、逃げなきゃ!
そう思い、必死に体をばたつかせる。
「――無駄なあがきね、田中さん」
「……っ、何で――!」
「――見ちゃったのよ、昨日。
あなたがユウジとしている会話も、キスも」
そういうと――。
葛城さんは私の顎をぐっと掴んで、上にあげた。
「……その唇で、ユウジを誘惑したこと
死んでわびることね」
そういうと――。
彼女は躊躇もせずに、
私のイスを蹴り飛ばした。
ぐらりとイスは後ろへゆれ、
そのままプールへと落ちた…。
ドボンッ!
「(息が出来ない…っ!)」
ごぼごぼと、口から泡が漏れる。
苦しい…、私…死ぬのか………。
薄れていく意識の中、
私は――。
確かに見た。
「……さようなら、田中さん」
そういって、
愉快に笑う葛城さんの顔を。
――その顔を見て、私は思った。
「(……人の心は、ここまで汚れきってしまうものなんだ。)」
と。