教室の窓から、ぼーっとグラウンドを眺めた。

『花子、こっちこいやあぁぁぁああぁぁぁ!』

『っぎゃー!財前助けて!蔵に犯される!』

『俺に助けもとめんといてください。』


………今にもそんな声が聞こえてくるような気がして、
何だか悲しい気持ちになった。

――もう夕方かぁ。

…今更、部活へいける気なんてしない。
行ったところで気まずい雰囲気になるだけ。

――あーぁ。
こんなことになるくらいなら…花子に気持ち伝えたほうがよかったんかな。

そんなことを考えては、頭を横にぶんぶんと振った。


…花子に葛城のことも、自分の気持ちも
何も言えるはずがない。

言ったら――…あいつはお人よしやから、
俺を助けようとする。
んでもって、巻き込まれて終わりや。

…テニス部のやつらが花子に何も言ってないところからして、
多分――花子の身の安全を第一に考えたんやな。

葛城と出会ったら、何されるかわからん。

もしかしたら、ナイフで刺されるかもしれんしな。
…しゃれにならんわ。


「………はぁ」

たそがれながら空を見上げた。
そろそろ、帰らなあかんな。

あんま遅くに帰ると、テニス部の部員に出くわすしな。


そう思いながら、机からひょいっと降りると
ふと教室の扉が開く音がした。

ガラッ。

「………ユウジっ、」

俺は目を丸くした。
なんで…何で花子がおんねん。

なんで……?!

本当の気持ち


「……っな!
 何でお前がおんねん!」

ユウジは慌てたように一歩後ろへさがった。
「………会いに、きたっ」

「――…っ」

「ユウジ。行こ、部活に。
 みんな待ってるよ――」

私はユウジの元へ歩み寄ると、
ユウジの腕を掴んだ。

「――やめろやっ!」

そういって、ユウジが私の腕を振り下ろす。
…チクンッ。

胸が、痛い。

「………ユウジ、」

「ええ加減に…しろや。
 お前なんか大嫌いや。

 どこへでもいてまえばええねん!」

ユウジの怒鳴り声が、
静かな教室に響き渡る。

――はよ、どこにでも行ってまえ。
…俺の気持ちが揺らぐ前に。


「俺は葛城が好きや!
 大好きや!せやけど、お前に邪魔されたない。
 誤解されたら迷惑やねん」

「…………」

「――お前なんか、
 白石でも丸井とでも、
 誰とでも勝手にくっつけばええんや!」


そういうと――。
彼女は凄く、傷ついたような表情をして、
そのまま後ろを振りむかずに歩き出す。

……行って、しまう。

追いかけたい。
抱きしめたい。

……俺が、お前に気持ちを伝える前に。

どうか…どうか、
違うやつと幸せになってくれ。


「って、このまま帰るわけにいくかぁぁぁあぁあぁぁっぁあ!

「――…?!」

ドガッ!

よっしゃ、飛び蹴り決まった!
地面に思い切り倒れこんだユウジの上に乗っかって、胸ぐらを掴む。

…いろんな気持ちが、こみ上げてきた。


――ねぇ、ユウジ。

本当に嫌いなら
そんな悲しそうな顔しないでしょ?

そんな…苦しそうな顔しないでしょ?


「言いたい放題言って…もうみんなわけわかんないよ!
 蔵は何か隠してるし、
 ユウジはよく分からない女の子と付き合いだすし。

 小春は私に何か伝えようとするし、
 みんな…みんな、バラバラで。」

「………」

「みんな…っ、
 みんなが揃わない部活なんて………っ」

そういうと、
私はユウジの胸板をばんばん叩きながら涙をこぼしていた。

…みんながバラバラの部活なんて嫌だ。
――誰1人、
かけちゃいけない部員なんだ。


「………ねぇ…ユウジ、
 戻ってきて……」

「………」

「………行かないでっ、」

物凄く不細工な顔になっているのは百も承知だった。
――だけど、
それ以上に今呼び止めないとユウジがもう届かないところへ行ってしまいそうで。

――私は、
それが怖くて必死にすがりついた。


「ユウジ………っ」

「……あかんわ。」

そういうと――。
ユウジは苦しそうな顔をしながら、私をぎゅっと強く抱きしめてきた。

強く…強く。


「ユウジ…痛い………っ」

「………離したない。
 他のやつなんかに、渡したない……っ」

「………っ」

「俺……辛い。
 めっちゃ…辛くて、どうしようもなくて…」

「………」

「花子守るために…思ってたんに、
 やっぱ無理や……。

 自分の気持ちに嘘つくなんて無理や……っ」

ユウジの頬に一粒の涙が流れ落ちたのが見えた。

…辛かったんだね、ユウジ。
苦しかったんだね、ユウジ。

どんなユウジでも私が受け入れるよ。

受け止めるよ。



――…だから、お願い。

どうか、私を頼ってほしい。
もう…自分を偽らないでほしい。


「……ユウジ。
 全てを、話してほしい。

 ゆっくりでいいから」

そういうと――。
ユウジは少し困ったような表情をしてから、
意を決したかのような表情になる。


「……おん、わかった。
 お前には…知ってほしいねん」

――何もかもを話せば、
花子が危険になるだろう。

それでも…それでも、俺は真実を話すことを選んだ。

――もう、自分の気持ちに嘘なんてついていられない。




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