「……蔵、お願いが、あるの」

「……ん?なんや?」

「――キス、して」

そういうと蔵が珍しく目を丸くした。

覚悟


「花子…お前、何いうとるん?」

「お願い。キス…して、ほしい」

私は蔵の腕をつかむとすがりつくようにそういった。
…お願い。お願いだよ、蔵。

じゃなきゃ私の心は――。



「…ええん?」

「うん…」

「そうか、なら――」

そういうと、蔵は私の顎をくいっと持ち上げる。

「………っ、」

「やっぱやめややめ。」

そういって蔵が肩をあげてみせた。

なん…で。


「蔵…何で?」

「ん。お前無理しとるように見えるから、
 やめや。」

そういって蔵がポンポンと頭を叩いた。
……蔵っ。


「……ごめん」

「ええよ。けど――次は覚悟しぃや」

そういう蔵に、
私は頬を赤らめた。


……ユウジに心変わりする前に、
私の全部を…奪ってくれればいいのに。

そうとさえ思ってしまう。


「(好きなやつやからこそ、傷つけたくないんや…。)」


.

..

...


朝クラスへ入ると、
謙也がビックリしたような表情でこっちを見てくる。

「え…えぇぇえぇぇ?!」

「なんや、謙也。文句あっか?」

「え…べべべ別に文句はないけど――」

そういって謙也が私の顔をジロジロと見てくる。
――なんだ、謙也。
言いたいことでもあるのか。


「……何?」

「え?いや…俺てっきり、
 花子はユウジやと思っとったわ!」

そういってあっはっは!と笑いながら謙也が私の頭をはたいた。
バシンッ!

…痛いしっ。
っていうか…ユウジの名前、だすなよ…。

そんな私を見てか、
蔵が謙也をどつく。

「あでっ!何すんねん、白石!」

「…アホ。お前ほんま空気読めんやつやなあー」

「っは?何がやねん」

「………こっちの話し」


その後、
私は一日中まともに授業を受けることができなかった。

――蔵と付き合っているのに、
ユウジのこと気にかけるなんて…最低だ、私。


「(蔵のことだけを見て、
 蔵のことを愛そう。

 ――私はユウジが好きじゃないんだ。)」


そう何度も自分に言い聞かせた。




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