湧き上がる想い(一氏視点)
――あんとき、
花子と小春がキスしとるの見て――。
俺は、変な感情にわきたてられた。
「(小春のこと…殴りそうに、なった。)」
確かに花子のことが許せんかった。
花子のことを殴りたい思ったけど、
それと同じくらい…いや、それ以上に小春に手だそうとしてしもぅた。
「……俺、は。」
俺は、小春のことが大好きなんに。
――こんな感情、おかしすぎる。
…こんなん、俺じゃない。
ピンポーン。
インターホンがなり、
カメラを確かめてみる。
「………こは、る。」
そこには小春が玄関に立っていた。
……何の用があんねん。
っていっても、
今日は俺…学校休んでもうたからなぁ。
プリントでも持ってきてくれたんやろか。
ガチャッ。
「……あ、ユウ君…。」
「………小春。」
俺はその場にいるわけにもいかず、
「中に入り」とたして自分の部屋へと案内した。
――この前の件といい、
やっぱ…きまずいわ。
「はい。これ、数学のプリント。
それと、国語のノートも随分進んだみたいやからかしたげる。」
「……お、おう。
……さんきゅ」
そういって、俺はノートを受け取った。
…あかん。会話が続かんくなってもうた。
「ユウ君。……花子ちゃんに謝り」
小春が喋ったかと思えば、お説教にうつってしまった。
……なんで、花子の話題がでんねん。
「……なんで、花子が――」
「あれは誤解や、ユウ君。
花子ちゃんと私は、キスしてないんよ。」
「………どういう、ことなん。」
「――花子ちゃんの口元にチョコついとったから、とってあげただけや。
それがたまたまアンタの角度からはチューしとるように見えただけなんやで。」
………なんや、それっ。
「……で、でも!
どっちにしろ、あかんわ――!」
「何が?」
そういう小春の目が、物凄く怖い。
……あかん。思わず目そらしたくなる。
「……何があかんの?ユウ君。」
「そ…それは――」
「ユウ君は。…私に怒っとるんとちゃうん?」
「な…!何をいうとんねん、何で俺が小春に「一氏、えぇ加減にせぇよ!」
小春の怒声に思わずおののいてしまう。
「……あんた、いっつも小春小春って…。
本当は自分の気持ちが怖いだけやろ?」
「……怖く、なんか」
「怖がっとるやんけ!
あたしが気付いてないと思ったら大間違いねんぞ、一氏!
あんたは…ユウ君は。
……あたしに、嫉妬をしたんや。」
……そんなわけ、ない。
嫉妬なんか…。
「俺は、嫉妬なんか――」
「ユウ君。自分の気持ちに…ええ加減、正直になりぃや。
いつまで花子ちゃんを待たせる気なん…?」
そういう小春は、
俺のことを心底同情するような目で見てきた。
「……あんた、もしあたしと花子ちゃん付き合ったらどう思う?」
「……嫌、や。」
「それはどういう意味での嫌なん?」
……どういう、意味で。
そんなん…わからん。
俺は…俺は………。
「……ユウ君。あんたの好きな人は、誰や。」
「…………。」
「………すぐそばに、おる人ちゃうんか。
ずっとずっと――あんたのことを、
見てきてくれた人ちゃうんか。」
自分の中でずっと、
つくっていた壁が…確かに、崩れたような気がした。
「小春!俺、俺――!」
「やっと気付いたんか、自分の本当の気持ちに」
「お、おう!」
「なら…いわなあかんで。
じゃなきゃ――」
そういって、小春は少し沈んだ表情になったが、
すぐに明るい表情になる。
「まあ、健闘を祈るわ!」
「……おん。ほんま、ありがとな、小春」
――俺は、小春のことを…本当の友達として好きなんや。
で、花子に恋をしとった――。
…俺は、花子にやきもちやいてたんや。
……何で気付かへんでんろ。
「(この気持ち…伝えな、あかんよな。)」
俺は携帯を手にすると、花子に電話をかけた――。