イブイブ≠




「うわっ、すっげぇ!なんでこんなケーキ?祝い事か?」

 遅めの朝食の時間。厨房からちらと見えたケーキに声を上げたエースに、料理長はあからさまな警戒を崩さずに「夜までだめだぞ!」と覗き込んでいたエースを追い払った。夜に食べられるのだとわかれば、どこかの万年欠食児童だった弟のようにいきなり手を伸ばして食べるような真似は流石にエースはやらない。

「エース隊長、なんでってそりゃ、明日がクリスマスだからだぜ」
「クリスマス?それなら知ってる。どっかの国の神様の祭りだろ。でもなんでこの船で祝うんだ」
「こんだけ人がいるんだぜ、その神様祝いたいって奴も結構いてなぁ。まぁ、ついでだからって毎年宴会にしてんだ」
「へぇ」

 いつもよりも多くチェリーが乗せられたパイに齧り付きながらティーチが丸い腹を揺らした。勧められるままにエースもパイを口に詰め込みながら、年の功か意外と博識なティーチの話に耳を傾ける。元々は家族で静かに過ごす筈の祭りは近年は世界中に広まり、意味も知らずにただ騒ぐ口実にされていると。まさに口実にしているおれらが嘆く理由はねぇなと周囲で飯を食っていた奴らも同調して騒ぎだし、エースは無意味に楽しくなってきた。なるほど、口実ならばなんでもいい。静かに祝いたい人間には甚だ迷惑な話であろうが。

「おまえら、今から騒ぎすぎて夜までに体力切らすんじゃねぇぞい」
「マルコ!だっておれ初めてだし、楽しみにもなるさ!」

 エースが勝手にティーチの皿からマルコの持っているトレイにパイを乗せると、マルコは「朝から甘いもん食わせんじゃねぇよい」とぼやきながら半分にちぎり、うるさいエースの口に半分を押し込んだ。

「むぁ、うご、あっぇ」
「人の言葉を喋れよい」

 離れた席に向かうマルコを、自分の朝食を両手に抱えたエースが追いかける。知り合った当初はわからなかったマルコの心の動きだが、今はなんとなくわかる。エースはマルコが苛立っているように思えたのだ。
 口の中の物を飲み込み、大盛りのピラフをかっこむマルコの横にどっかりと腰を下ろした。

「マルコは静かに過ごしたい派なのか?」
「行ったこともねぇ国の神さんの祭りだ、どっちでもいいよい」
「じゃぁなんで怒ってんの」

 スプーンを口に入れる寸前のマルコの動きがぴたりと止まり、方向を変えた匙先がエースの口に差し出され、エースは反射的にそれを咥えた。たっぷりと染み込んだ魚介類の味が広がり、口内のチェリーの匂いが一瞬で掻き消える。
 米粒の綺麗に消えたスプーンは再び器に戻され、マルコは何事もなかったかのように食事を再開した。けれども、表情は変わっていないマルコの耳先だけが妙に赤い。

「あー…ごめん、腹減って起きて、マルコ、疲れてただろうから」
「…………もういいよい」

 咀嚼と嚥下を機械的に幾度か繰り返し、マルコがぼそりと呟いた。確かに、知りもしない神様の祭り等、自分たちには全く関係のない事だ。

「次はマルコが起きるまでちゃんといるから」
「うるせぇよい」
「いい子にしてるから」
「……おれはサンタじゃねぇぞい」
「うん、プレゼントとか、興味ねぇもん。マルコがいればいい」

 渦高く積まれた朝食の山に隠れながら、エースがさも嬉しげに微笑む。耳どころか顔までが赤く染まりそうで、マルコは先走った願いを心の中で呟いた。
 どうかこの男が、今すぐにパイに顔を突っ込んで寝てくれますように。

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