こんな日が来ることを



 姫君のお召し物を脱がせるには、準備運動と言うには激しすぎる攻防を繰り広げるのが常だ。……だった筈だ。
 砂漠地帯で頭を疑うような分厚いコートは、夜ともなればその厚さは理に適っている。眼下にあるクロコダイルの肩からそれを剥ぎ取って後方に投げ捨てれば、そのコートの扱い方かはたまた寒いという抗議なのかは不明な舌打ちがあった。ただ、それだけ。
硬質な靴音を立てて寝室へ移動する背中に続き、絨毯に足音が消される位置まで来てようやくクロコダイルが止まった。
「閉めろ」
 いつでも不機嫌そうな低い声にドフラミンゴが指を僅かに動かせば、ひとりでに扉は閉まり、カチリと施錠の音がオマケに響く。
「……なんなのクロコ、今日は可愛すぎじゃねぇか?そんなに抱かれたかったって?」
 なだめすかし、そして力づくでシーツに縫い付ける手足も嫌いではないが。とドフラミンゴはこの状態に首を傾げた。
 ヒュ、と風を切って頬の横を掠めたのは、お得意の砂の刀ではなく上質の皮で作られた靴。既にベッドに乗り上げたクロコダイルは裸足の足の裏をドフラミンゴの内腿にゆっくりと押し付けた。
「やりたいんだろ。四の五の言わずにとっとと始めろ。そして終わったら消えろ」
 いつものクロコダイルの声には間違いない。ただ、そこには酷く聞きなれないニュアンスが含まれていた。なぜか喉の奥を小さく砂の粒が移動するような、むず痒い、そんな感覚。
 お誘いを断るほどこの傷顔の男を軽く思っていないし、むしろ全てを自分の物にしてしまいたいと思っているドフラミンゴに否やはない。覆いかぶさるようにその体を腕の中にすっぽりと納め、ご馳走に齧りつく様にクロコダイルの唇を塞いだ。
「……っ…」
 そっと背中に移動してきたクロコダイルの右手を一瞬警戒したのが伝わったのか、僅かに唇が離れた。しかしクロコダイルは盛大に眉を寄せたものの、それ以上は動かなかった。
 その後の彼の行動は、予想だにしていなかった。いや、それを四六時中望んではいたが、まさか叶うとは思ってもいなかった、が正しい。
 敵意がないことが伝わったのを確信したのか、クロコダイルの腕がまたそっと動いてドフラミンゴの厚い背中に回された。凶悪な鉤爪も食い込ませるでもなく、ドフラミンゴの背中の上でクロコダイルの右手と出会った。
「…………なぁ、これって……」
「黙れ」

 はじめて、お前から抱きしめてくれてる?
 
 それも胸に顔を埋めるようにして!!

 胸の高鳴りは、クロコダイルの頬に直接響いてる筈だ。
 その想いを違えることなく、ドフラミンゴは自分と比べれば小さな背中を抱き、その艶やかな黒髪をゆっくりと撫でた。
「クロコダイル、何度も言ったけどよぉ」
 続きを促す声は無い。けれども、確実に伝わっている。確実にだ。

「愛してるぜ」

 砂嵐も起きず、舌打ちも聞こえない。
 返答なんて無くても構いはしない。気持ちが変化した理由だってどうでもいい。


 その日、ドフラミンゴはクロコダイルを、今までで一番優しい抱き方をした。
 






2010/03/15


色々仕事とか計画などで精神的にお疲れな社長だったり。
ラブラブも大好きなんです。
もっと甘えたいけど悔しいので見せたくない鰐。








texttop

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -