凍えたい/後





 理想郷を作るという目的も見失い、差し伸べられた酔狂な「元」社員達の手を掴まず、自らこの海底監獄に囚われた。もう、外の世界に興味は無かった。
 ただ繋がれ、同じ事を日々繰り返し、呼吸をしていた。それでよかった。


 ――ただその熱さが、全ての停滞を叩き壊した。


「あっ、あぐ、う……――!!!」

 咄嗟に口を塞ごうと動かした手は、やはりジャラリと鎖が僅かに揺れただけだった。執拗に内部を嬲られ、触れられてもいない性器から勢い無くドロリとした粘液が胸に滴り落ちて鎖骨へ流れた。耳の後ろで血管が破れそうなほどの騒音がする。

「おーおー、随分濃いじゃなぇか。一人でしてなかったのかぁ?ま、この方が滑っててめぇが善くなれるしな、フフフッ」
「――――…」

 コートん中のものも没収されちまったからよと好き勝手な事を呟きながら、おれの目の前で掬い取った精液を指先で弄んで見せ付けた。滴ったものが全て胸の上から消えるまで、ドフラミンゴの指がぬるぬると乳首の上を往復し、もう片方の手は熱をもって来た最奥まで自身を苛む道を作るための潤滑剤を押し込まれて行く。

「ケツだけでイケるとか、初めてじゃありえねぇよな?相手は?最初はどっちから誘った?どんな体位が好き?乳首開発したのはそいつ?それとも自分でオナりながら?掴むだけで中が締まるな、相当好きだろ?なぁ、答えろ」

――おれを拒否し続けた理由を。

 気が付けば、首から上だけが動かせるようになっていた。覆いかぶさるようにドフラミンゴの顔が鼻先に迫り、奥に捻じ込まれた指で引っ掛けるようにして限界まで折りたたまれた背骨を更に顔の方へ引き寄せられ、意地で悲鳴を喉奥で止める。

「――おれに、答える義務が?ああ、理由位なら、学習能力のねぇお前に、もう一度教えてやって、もいい」

 口の端をひきあげ、小刻みに震える体を叱咤してサングラスの奥を見据えた。濃い色のガラスの向こうにある瞳が、異彩を放つ。
 言葉の先にあるものは、分かりきっている。一度は飲み込んだはずなのに、自分の愚かさには笑いすら起りそうだ。

「お前が嫌いだ。目障りなその存在からして気にいらねぇ。とっとと、おれの目の前から、消えろ」

 予想通り、弾ける様にして笑い出したドフラミンゴはひとしきり石壁に声を反響させた後、ピタリとそれを止めた。

「――生憎消えろといわれて消えるほど真っ当なら海賊なんぞになってねぇ。奪ってこそのフダツキってもんだ。だから今、ここでお前を奪ったとしても喝采される行為だよなぁ?クロコダイル」

 不自然なほど折り曲げられた脚の間に、凶悪な大きさのドフラミンゴの性器がピタリと押し付けられた。震え続ける両肩を抑え付けられ、灼けた杭を捻じ込まれる事を想像する時間を与える目的は明白なドフラミンゴの笑っていない目許に唾を吐きかけた。

「……てめぇのそういう所、たまんねぇな…」

 ニヤリと吊上がった唇を見ていたおれの顔が、強制的に前を向かされた。

「――悪趣味過ぎるぜ、変態野郎」
「お褒めに預かり光栄だ。ゆっくり見物しな」









 てめぇを見てると、飽きねぇ。

――鬱陶しいだけの鳥頭

 こっち向けよ。減るもんじゃねぇだろ?

――うるせぇ。お前に見られると目減りするんだよ。失せろ

 ………おれは、本気だぜ?





  な  に  を






「ぐ、あっ、あああああ!!!」

 食い縛ろうとした歯が見えない何かにこじ開けられ、塞き止められなかった悲鳴が石壁に反射した。内臓に押し入る凶器が痛い熱い痛い痛い痛い痛い

「……冷てぇな」

 無様に痙攣するおれの肩口で、灼熱にも感じるドフラミンゴの呼吸が耳にかかった。すぐにでも容赦なく揺さぶられるだろうという予想に反して、眼前にある結合部分は凶器を飲み込んだまま時折ヒクリと震えるだけだ。
 内部が落ち着くまで待ってくれている?この男が?
 ――違う。

 滑りが足りず、裂けた孔からゆっくりと鮮血があふれ出して下腹部の茂みを伝い、腹に流れ落ちる。氷のように冷えた体に食い込んだ楔は、無遠慮におれの体温に侵入し、侵蝕して行く。
 唇が、わななくように震えた。それは全てドフラミンゴの目の前に晒されている。

「寒いだろう」

 抗えない吐息と熱。流れ込む声。悪魔の誘い。

「自分にいいわけをしろ。甘えろ。……クロコダイル」

 ズクリと体の奥が疼いた。同時に内部の楔を軽く揺すられると、閉じさせて貰えない喉奥から擦れた息が漏れる。
 擦れて傷の出来た背の下にでかい手が差し込まれたと思うと、そのまま一気に抱き起こされた。自分の体重で更に深く繋がってしまい、思わず踵で床を引っ掻いてもがこうとするが、その手は離れない。
 後頭部を掴まれ、潮の匂いのするドフラミンゴの胸に強く押し付けられた。海賊と海は切り離せない。海に呪われようとも、海賊にとっての海とは全てが還る場所だ。
 名誉も金も、そして屍も。

 触れる肌から、熱が流れ込む。潮の香りと、生きるための熱。
 必要の無いと思っていたものは、必要が無いと思い込んでいただけに過ぎない。
 なんて無様な。

「あ、んぁ…ああっ――…っ」

 最早体は自由に動かせる。声を出させるためにドフラミンゴが指でこじ開けた口も、唾液にまみれた舌も。

「クロコダイル、クロコダイル…」

 馬鹿みたいにおれの名前を呼ぶドフラミンゴが、体中を撫で回しながら突き上げてくる。唇を塞ぎ、目の縁を舐め、眼球まで舐め回した長い舌は首、鎖骨と飴玉とでも思ってるんじゃねぇかというほどしゃぶられた。最初に言われたように、全身を舐めまわされるのだろうと想像すると、おぞましさと不愉快な感情で息が詰まる。けれどそれすらも一瞬で吐息となって弾ける。
 叩かれて熱を持った尻からジンジン痺れた感覚が、背筋を這い登って鳥肌を立たせた。

 ――――温かい。

 いいわけを。冷えた体を。ドフラミンゴに預ける。これは生存本能だと。
 鎖で繋がれた手でこいつのシャツを掴むのも、もっと体温が必要だからだ。

 最奥で一際大きくなったドブラミンゴの楔が脈動し、熱いものが内臓に注ぎ込まれた。それを余さず搾り取ろうと揺れた腰を捕らえられ、硬度を失おうとしている楔のまま再度揺さぶられた。
 開けっ放しの口からは、喘ぎと唾液だけが零れる。
 ドフラミンゴの下らない問いには、終に答えなかった。













 

 


 ――――指先から熱が引いてゆく。

 見慣れた鉄格子の向こうには相変わらず下品で不愉快な顔ぶれで、ドフラミンゴの姿は無い。

 ひとり、低く笑った。

 これから起る絶好の機会を棒に振り、他人の体温等に縋ってしまった自嘲の笑いだった。








END




初めて書いたOPSSにて、全くキャラが動けてません。

ワニはツンツンツンツンツンギレデレくらいでいいと思います。
いいわけを用意したドフの優しさと嘲り。

なんだか当初書きたいと思ってたものにさっぱりなりませんでした。おかしい、SMチックにしようと思ったのに・・・・



2010/02/22







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