二番隊隊長の憂鬱
雨は嫌いだ。
能力者となる以前、それよりも幼い頃から感じていた雨の日のえも言われぬ倦怠感は今でもクロコダイルを苦しめていた。霧雨、時雨。そのどちらも雨であるというだけで嫌いなのに、船室の外はスコールのような土砂降りだった。
「クロコダイル、入るよい」
ノックをしても部屋から返事が無い事は、雨の日の決まり事のようになっている。扉が開いた事で大きくなった雨音に、クロコダイルは舌打ちをして横たわっていた身を壁に向けたが、床に落ちる水滴の音が非常に近い事に気がついてゴロリと訪問者に向き直った。
「相変わらずだらしねぇなァ」
「人の部屋の床濡らすな馬鹿が」
「ついでに服乾かしてくれよい。風邪ひいちまう」
「……チ」
いつも首元まで閉まったカッチリとした服装を好むクロコダイルは、ラフにシャツを着ただけの状態だった。
「お役目御免か、マルコ」
「風が出てきたから引っ込んでろって戻されたよい。あとはサッチたちにまかせりゃいい。普段サボってんだあいつら、せいぜい働いてもらうよい」
荒れた海に落ちた能力者を助けるほど大変な事はない。雨風が酷くなった時の航路管理は専ら非能力者が行うのが暗黙のルールだった。マルコは風が酷くなる前までは手伝いをしていたが、クロコダイルに至っては雨が降り出した途端に船室に引っ込んでしまっていたのだ。それもまた、クロコダイルがこの船に乗った時からの暗黙のルールである。
雨の日のクロコダイルは能力的な意味合いも含めて役に立たない。
「砂にしてくれるなよい」
「心配ならおれに頼むな」
ずぶ濡れのマルコの服と体についた水分は、器用にクロコダイルの右手に吸い込まれていった。
「ありがとよい」
「床はてめぇが拭け」
服がカラリと乾いたのにマルコが礼をしても、ベッドから起き上がったことすら億劫だと背中で語る男はまた布団に潜り込んでしまった。
「クロコダイル」
「なんだってんだ」
「おれも疲れたから隣で寝ていいかい」
「…………床、拭いたらな。部屋が湿気る」
マルコが一旦部屋を出る気配がし、しばしの物音の後に廊下に何かを放り出す音がした。おそらく足蹴にされた雑巾だ。
「邪魔するよい」
サンダルを脱ぎ、クロコダイルの横にマルコが滑り込むと、クロコダイルはこれまた億劫そうに寝返りをうってマルコと向き合った。
「……好きだなァ、お前」
「黙れ。これが一番あったけぇんだ」
クロコダイルはマルコの乾いた胸に顔を埋め、右手は背中、手首から先の無い左手は肘で曲げられてマルコとクロコダイルの隙間に挟まれる形になる。ついでに冷たくなった足先までもが絡み付いてくる。
ふう、とどこか幸せそうな息が胸に当たり、マルコはクロコダイルのサラサラした黒髪に鼻を埋めながら笑った。
「あったけぇかい」
「あぁ」
雨は当分止みそうにもない。
クロコダイルは体温が上がりにくく、冷えるとよく鉤爪の接続部分を無意識に撫でているのは痛みのせいだろうとマルコは思っている。
マルコの体温がじんわりとクロコダイルに移り、ようやく不機嫌そうな眉間のシワが消えて小さく寝息が聞こえてきた。
長雨はクロコダイルを不調にする。けれど、この時間だけは雨に感謝したいほどにマルコは気に入っている。
ほどなくマルコも目を閉じて、乾いた砂と太陽の匂いの中で眠りについた。
2010/05/23
可愛い鰐が!鰐が書きたかった!!
肉体関係は多分それなりにある。あるので何もしなくてもいい。
周囲のマル鰐マルがあまりにときめきすぎて、そして今日が豪雨だったので一気に書いてみた。
需要ある……??
多分また書きますw
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