直ぐに終わって



「いいか、動きやがったら顔の原型分からねぇくらい殴るぞい」
「…………ハイ。」

 騎上位ならぬマウントポジションでそう宣言され、エースは渋々頷いた。
 珍しく諦めの悪い敵の攻撃に晒された二人は返り血と煤に汚れた衣服をベッドの下に投げ散らかしている。いかに無限の体力を持つイメージのあるエースと、再生し続けるマルコといえども疲労はピークだった。
 だが若いエースの下半身は非常に本能に正直だった。私室に戻ろうとしたのを捕まえられ、マルコの眉間のシワがピークに達したのが十分前。そしてどうしてもマルコを抱きたいとなだめすかされたのが七分前。自分で抜けとエースの部屋に蹴り返したのが五分前。更に追い縋られたのが五分前。マルコが諦めて条件を出したのが三分前。

「……拷問みたいなんだけど」
「嫌なら手ぇだせばいい」

 そして冒頭に戻る。

 マルコ自身が自分の後ろを濡らすグチュグチュという卑猥な水音と、避妊具を器用に片手で反り返ったエースに被せるパチンという聞き慣れた音。
 おれの中に入れられればいいんだな?という問いに、マルコの冷たい怒気に当てられたエースが返事をしたのが三分三十秒前。
 マルコの体に触らぬよう、自主的に頭上に上げたエースの拳がぎゅっと握られた。マルコの濡れた入り口に自身が触れた温い感触。ちいさく細く吐かれたマルコの呼吸が聞こえ、カリ首だけを咥え込まれたそこを突き上げたくてたまらない衝動を必死に抑えた。
 そんなエースの様子を見下ろしていたマルコが、ふいにその上体を極限まで逸らしてエースを根元まで一気に飲み込んだ。 

「っ――――え、あっ…アッ――マルコ、だめ、――!!??」

 エースの体が陸に打ち上げられた魚のように跳ねる。一体何が起きたのかはさっぱりわからない。けれども、マルコの中に絞られるように自分の精液が注ぎ込まれていると言う事だけはわかった。

「……なんだよ、これぇ……酷ェよ、何したんだよあーもう……」

 ずるりと外気に触れたエースに被された避妊具の中には確かに白いものが溜まっていて、本気で涙目になっているエースに意趣返しが出来たマルコが鼻で笑ってその体をベッドから蹴り転がした。

「とっとと自分の部屋に帰れ」
「本気で言うの?それ」
「約束を破る気かい」
「――――はぁあ……」

 エースの腹の上では僅かに兆しを見せていたマルコの性器をちらりと見ても、それは既にくたりと横たわっていて、年齢だの経験だの今すぐに手に入れられないものがエースの頭にぐるぐると駆け巡った。

「じゃあ大人しく帰るから、寝て起きたらさせてよ」
「寝言も言えなくされたいかい」

 意気消沈した背中が扉の向こうにパタリと消えて、エースの部屋の扉を閉める音がした。
 どうせいつかあの若者はマルコを翻弄し、自身に何が起こったのかを確認するだろう。溜息をつきたいのは自分だと裸のまま布団を被ったマルコは思う。
 長い間錆び付いていた体の奥の深い場所が、届き始めた熱に疼いてた。







2010/06/01

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