卑猥な味蕾
狭い部屋、狭いベッド、妙に明るいランプの灯り。
珍しく抵抗を見せるマルコに、エースは少し苛立ちながら勢い良く自分の下着を脱ぎ捨てた。船上で湯をはって入浴する機会は少ない。よって、マルコの体からしっかりと石鹸と湯の香りが立ち昇る機会も少ない。なのに。
「舐めたい」
「駄目だ」
「舐めさせてってば」
「エース……嫌だ」
一文字ずつ区切られて発音された「イヤダ」にマルコがそろそろ本気でキレそうな気配を感じ、エースは渋々抑えつけていたマルコの膝を手放した。
指でほぐすのは良いのに舌は駄目なんて。綺麗な状態じゃないと嫌がるから、入浴日まで待ったのに。
溢れそうになる文句を飲み込み、エースはぞんざいに大股を開いてマルコの顔を股間に引き寄せた。なんだかんだで舐めてくれるマルコは自分に甘いと、エースも少しは自覚している。
「……マルコ、おれにやってみてよ」
「んっ、あ?」
口に含んでいたものを離してマルコが訝しげに色気の無い声を上げた。エースの指が示す場所に、ゆるい曲線を描く眉が顰められる。
「おれ、されたことないもん。やってもらったら、なんでマルコが嫌がってんのかわかるじゃん」
その行為を散々拒否していたマルコが、眉を顰めたままいっそ潔くエースを裏返し、心構えをする暇もなくエースの排泄器官に温かく濡れた感触が這った。
「うひゃ、ちょ、マルコ……なんか、くすぐったいってゆーか、うひ」
「しろっていった奴ァ、らまってろぃ」
「舐めながら喋んないでっ!!」
太腿をマルコに両腕で拘束され、流石のエースも全力で逃れなければ外せない状態だった。そしてそうすれば今でも損ね欠けているマルコの機嫌は急降下するだろうと、腹を決めてエースは自分が口にしたお願いを享受した。
柔らかい舌の感触は、最初は慣れなくても段々とそこからおかしな痺れが広がって行く気がした。そして何より、排泄器官を舐められているという背徳感がある。中までは洗浄していないエースの直腸内にはマルコは流石に舌を捩じ込んだりはしなかったが、気持ちイイだろうということは予想出来た。
「も、もういいマルコ!ごめんってば!」
吸い付くように歯を立てられ、奇声を上げたエースの体がようやく解放された。やっぱりされるより、圧倒的にしたいわけで。
呼吸を整えてマルコの方に向き直り、無表情に唇を舐めるご機嫌斜めな男を抱き寄せる。そしていつものようにその濡れた唇に誘われかけて、気がついた。
「……キス、し辛いな」
「…………」
自分の口の最終地点との間接キスは、流石にちょっと考えてしまう。セックスで恥ずかしがる事の少ないマルコがその事が嫌だったのかなと考えて、エースは頭を僅かに捻った。
「エースっ……!?」
思い切り口を塞がれたマルコが、エースの舌に粘膜を舐め取られながら身を強ばらせた。エースの行動は、予想外だったらしい。長いキスの息継ぎで、ようやくエースと目が合う。
「今度は、キスたくさんしてから、舐めて良い?」
エースの無邪気な笑顔に、マルコの拳は見事に埋まり込んだ。
2010/05/15
text|top