優しいキス




 車座になったクルーたちが一斉に自分を凝視したのに、エースは不思議そうな顔で小首を傾げた。
 赤く腫れぼったい目はとろりと眠そうで、その後ろで鼻から豪快に酒を噴きだしそうになったサッチはエースの首に腕を引っかけて抱き寄せた。アルコールによる熱で汗ばんだエースの体は簡単にサッチの胸に白ひげの誇りを密着させてしまう。

「お前、今自分が何言ったか覚えてねぇだろ」
「へ?」

 二番隊も四番隊も入り交じった輪の方々から笑われて、鼻の頭まで赤く染まったエースが大事に抱えたジョッキをまた一口呷る。

「我慢して下さいよエース隊長、陸までまだ何日もありますよ」
「仕方ねぇよ、若いんだしよぉ!俺が若い時はほんと拷問だったもんな」
「えめぇは今でも盛り過ぎだっての!!」

 品のない濁声で大笑いされているエースは、本当に何も分からない様子でサッチを見上げた。馬鹿にされているのかからかわれているのかも判断出来ず、ただ視界も体も酷くふわふわしている。サッチはもう一度小さく口の端を引き上げ、エースの両脇の下に腕を突っ込んで引き上げた。

「……んだよサッチ、酒がこぼれる…」
「馬ぁ鹿、真っ直ぐ立てねぇやつのが使いもんになるかよ。おいお前等、これ以上こいつ泥酔させたらおれがマルコに9割殺されるから持っていくぞ」

 半殺しじゃないんですかサッチ隊長、と酔っぱらいたちが転げ回るようにして手を叩き、半ばサッチに担ぎ上げられるように連行されるエースに手を振った。
 
 そのふたつ名の通り、エースが戦闘で全力を出せば全ては焼け落ち、敵船は乗せたお宝ごとデービージョーンズのロッカーに永遠に仕舞い込まれてしまう。常に手加減を強制されていたエースが不満をため込むのも無理はなく、暴走を止めるのも一筋縄ではいかないのが日常だ。
 それが今回は違った。
 星の無い航路での奇襲は、滅多にない白くじらの横っ腹への砲撃で火蓋を切られた。船明かりも用いない小型船からの砲弾はエースの元部下でもあった四番隊の男を海へ叩き落とし、砲撃手たちを傷つけた。
 海賊である。奇襲が卑劣だ等という戯言は誰も口にしない。ただ、白ひげの家族に手をかけたことを思い知らせるには十分素過ぎる理由に、海に落ちた男を見た瞬間に全身に炎を纏って敵船に飛んだエースを制止する者は存在しなかった。小型の船団は瞬く間に炎に包まれて残骸と化し、火に巻かれた人間たちは次々に海へと飲み込まれていった。
 足場すら燃やす勢いで最後の船に跳んだエースを追い越した青い炎は、燃え盛る黒髪をひと撫でするだけで叱りもせずに残る敵を全て海の養分に変え、その最後の足場さえも全て燃やし尽くさせた。

 海に落ちた四番隊の男は奇跡的に無事で、これだけの奇襲にもかかわらず怪我人は出たが死傷者はおらず、久々の全力戦闘の後の宴はエースをしたたかに酔わせた。隊員たちは我が隊長の杯を次々に満たし、それを止める無粋な輩は存在しない。

「で、その骨無しクラゲをおれにどうしろってんだい」
「いやそれが聞いてくれマルコ」

 今にも崩れ落ちそうなエースを支え、一番隊の輪から引きずり出したマルコにさもおかしそうにサッチが耳打ちをした。ぴくりと眉を顰めたマルコに、酒臭く熱い体が荷物のように投げつけられる。

「つーわけで、こいつはお前にプレゼントだ」
「んー……マルコぉ?…おれをあげるー」
「いらねぇよい」
「まぁまぁ、今ならお買い得ですよ」

 既にまともに立つことも出来ていないエースを押しつけ、サッチはマルコの抜けた輪の中に入ってしまった。こんな宴でエースを叱る理由も無く、マルコは仕方なく決して軽く無い体をひょいと肩に担いで後甲板の自室に向かって消えていった。
 サッチの耳障りな笑い声は、どこまでもマルコの後ろを追ってきた。


「やだ、マルコの部屋が良い」
「おとなしく入れ」
「やーだー!マルコのベッドがいい!」

 部屋に放り込もうとするマルコの手を、酔っぱらいとは思えないほどの力で掴んで抵抗され、マルコは仕方無く自分の部屋のベッドにエースを言葉のままに放り投げた。

「痛ぇ!」
「痛ぇもんかい」
「痛いってば……優しくしろよ」

 今にも眠ってしまいそうなとろりと赤く潤んだ目で見上げられ、マルコは乱暴に部屋の扉を閉めてベッドの端に腰を下ろした。エースはその腰に両腕で抱きつき、熱い呼気をマルコの下腹に向かって浴びせかけて来る。

「すっげぇ、したい」
「足腰たたねぇ奴が戯言言ってんじゃねぇよい」
「平気だってば、できる……な……あぅ、」

 ハーフパンツの上からマルコに握りしめられ、エースがもぞりと腰を揺らした。だがマルコはすぐに手を離してしまう。

「堂々としゃぶられたいなんざ言ったくせに、立ちもしねぇじゃねぇか」
「へ……おれ、んなこと」
「言ったらしいじゃねぇか。皆の前で"今すっげぇ舐められたい"ってよ」
「……まじで?」

 小馬鹿にしたようにマルコが口を歪めて笑い、記憶の無いらしいエースが酔いのせいだけではない頬の赤みを隠すように腕に力を込めた。

「うわぁ……どっか埋まりてぇ」

 マルコが笑う度に、腹に顔を埋めたエースの頭が揺れる。しがみつく手を解き、陸に打ち上げられた海獣のようにだらりと転がるエースの体を仰向けにすると、マルコは手際よくベルトを外した。元から着衣の少ないエースの体はあっと言う間に裸にされてしまう。

「マルコ、やっぱ、舐めてくれんの?」

 舌っ足らずな口調で見上げてくるエースに覆い被さり、酒臭いその口を塞いでだらしなく横たわった性器を指に絡める。舌を絡めながら軽く刺激しても、それは緩く芯を通しても、それ以上は大きくならない。

「こんなフニャフニャなのを舐めてもつまんねぇよい」
「だってさぁ……でも、したいんだ」

 戦闘による興奮の名残は体を熱くしているのに、吐き出すことが出来ないもどかしさでエースが身を捩った。いつもは自分を好き放題に翻弄して来るエースの滅多に無い姿にマルコの中の嗜虐心が心地良くくすぐられ、エースに跨ったままシャツを脱ぎ落とし、長いサッシュをするすると解いて行く。

「マルコ……?」
「じっとしてろい」

 期待を浮かべたエースをうつ伏せにし、解いたサッシュであっと言う間に両手首を背中側で縛り、余った布は胸の上下を挟むように二の腕までもを動かないように固定してしまう。ロギアであるエースにはほとんど意味の無い拘束だが、意義は十分にあった。

「火になるんじぇねぇぞい、酔っぱらいが加減間違えて部屋を燃やしてくれちゃぁ困る」
「なに、マルコ、何すんの」

 不安そうなエースにマルコはいつになく楽しそうに汗の匂いのする髪を撫で、ベッドの下に押し込んである小物入れの中身を枕元にぶちまけた。流石に何をされるのかわかったらしいエースが身を起こそうとするのを引きずり、胡座をかいたマルコは自分の足の上にエースの尻を乗せ、更にその隙間に枕まで詰め込んだ。
 問答無用で大股開きにさせられた自分の姿が耐えられなかったエースが逃げを打つが、その性器はしっかりとマルコに握りしめられている。

「まって、待ってくれって…!まさか……マルコ、入れんの?」
「そのまさかだよい。いつも散々おれに好き勝手な事やってくれてんだろいてめぇ」

 赤く染まったエースの頬を指の腹で叩き、細い瞳を愉しそうに眇めてマルコが二ッと歯を見せた。

「おとなしくしてりゃ、ちゃんと気持ちよくしてやるよい。逃げるなよ」

 逃げるなよ、の語尾は疑問系では無く、確実な恫喝の響きが含まれていた。まさかこんな形で意趣返しされる羽目になるとは予想もしていなかったエースが、赤らんだ顔を更に紅潮させて体を固くするのに構わず、マルコはいつもは渋々封を切る潤滑剤とゴムを手早くエースの腰の横に転がした。

「マルコぉ……一応言うけど、おれ、嫌なんだけど」
「おれもお前にいつも同じ事を言ってる気がするんだが、気のせいかい」
「ぅー…………」

 動物のように唸り、観念して力を抜いたエースの尻が重さを増した。暴れて回ったアルコールも、エースの脳を更に掻き回している。
 指に填めたゴムにとろりとしたジェルを垂らされるのを見て、エースは叱られた子供のように眉を下げて目を閉じた。



「…………マルコ、マルコ、なんか変だそこっ…飛びそ…」
「まだ駄目だよい。寝たら殴ってでも起こすぞい」
「ひでぇ……ぁっ…」

 尻の中を探られた事は本当に無いらしく、違和感だけしかなかった内臓の一点に浮き上がってきたしこりを撫でられたエースは怯えた声をあげた。初めて聞くそれは悔しいくらいにマルコの欲望を刺激し、ジェルまみれにした性器を揉みながらマルコは二本目の指をゆっくりと差し入れた。

「ぅく……な、腕、解いてくれよ」
「それも駄目だ」

 もう一度火になるなよと念を押し、腕を背中に敷いているせいで、サッシュにくびり出されるように突き出しているエースの胸を濡れた指先で撫で、埋もれているような小さな乳首をこねる。最初は全く反応の無かった肉の芽は、直腸の中の指と同じリズムで刺激され、段々と芯を持って膨らんできた。

画像を見る *R-18


「も……無理、出してぇよぉっ、マルコ…!」

 苦しさを逃すのに無意識で開けていた口の端から唾液をこぼし、本気で逃げを打つようにエースの体が暴れ始めた。連結した快感にマルコの指を食い締めていることに気がついていないエースの腰を捕らえ、指は抜かないままに尻をシーツに下ろし、潤み始めたエースの瞳を真上から見下ろして自分がされるような宥めるように優しいキスをした。舌でエースの下唇を押し下げ、三本目の指を回転させながらねじ込めば、既に朦朧としているエースが苦しげに呻いた。

「楽にしてやるから睨むなよい。……ま、こっちは今度また虐めてやる」

 ぷくりと膨らんで赤く色づいた乳首を弾かれ、エースの鼻から抜けるような声が漏れた。
 ゴムの封を切る音に濡れた瞳がマルコの動きを追い、取り出された見慣れたマルコの固く起立した性器を、まるで初めて見る物のように凝視する。

「立ってる……」
「立たなきゃどうやって入れんだい」
「いや……おれでもちゃんと、立つんだなぁって」

 そう心から不思議そうに言うので、潤滑剤を手にしたままマルコは思わず間の抜けた笑い声をあげた。

「いつもお前とやってて勃ってんのは何だと思ってんだよい。……エース、おれぁ最初にも言った筈だ」
「何を…?ぅわっ」

 うつ伏せに返され、冷たい粘液が大量に解された場所落とされた。ぎゅっと力の入ったそこをマルコに見られているんだと思うと、今更死ぬほど恥ずかしくなって来た。
 明らかに指とは違う感触の熱が押しつけられ、エースは思わず身構えてシーツに顔を埋めた。その固く閉じた口唇を解すように煙草の匂いの染み着いたマルコの指が優しく辿り、前歯の隙間から熱い舌先に触れる。

「エース……おれァ、お前を気に入ってるって言っただろい」
「んっ、マぅ……うあっ、アアッ!!」

 内臓を掻き分けて侵入する質量に、こじ開けられた口からは堪える事も出来なかった声が漏れた。犬のように早い息と共に溢れだした涎がマルコの指をグッショリ濡らし、尻肉にようやく固い恥毛の感触がした時にはエースの瞳から押し出されるように涙が鼻を伝ってシーツに染みを作っていた。

「痛くはねぇだろい」
「……痛くねぇけど、ぅー…キツくて泣ける…マルコ、この体勢嫌だ……暴れねぇから、腕解いてくれ」

 鼻を啜りながら懇願され、マルコはエースの手首を拘束していた結び目を解いてやった。腕が自由になった途端、体を支えるようにして体勢を変えようとするので、マルコの方が慌てて繋がったままの腰を支えた。

「エース、後ろの方が楽だぞ」
「痛ッ…いい。それより、入ってるところ…見てぇ」

 強引に足を上げ、呻きながら自分の脚の間を確認したエースが手を伸ばして結合部に触れた。皺一つなく拡がった結合部を見て、訝しそうなマルコにエースのふにゃりと頼りない笑顔が向けられた。

「……なんか、マルコが入ってるってわかると…妙に嬉しいな。マルコもおれのが入ってると、そう思う?」

 腕の痺れと酔いのせいでいつもの半分もない力で首にしがみつかれ、マルコのものに痛いほどの血が溜まって行くのを直腸にダイレクトに感じたエースが喉の奥で悲鳴を上げた。

「マルコっ…なんか、でかくなって、苦しいんだけど」
「ああもう黙れよい。馬鹿野郎」
「馬鹿じゃねぇよ、マルコ、気持ちよくしてくれるって、いったじゃね、か……あ、ああっ!」

 一瞬このまま滅茶苦茶に突き上げてしまいたい衝動にかられたマルコだったが、エースの言葉に大きく息を吐いて抑え込んだ。探っていたエースの良いところをカリ首で擦るように抽送すると、だらしなく揺れるエースの性器の先端からようやく僅かに透明な体液が溢れだして来る。
 中の動きと連動させて扱き上げれば、もう僅かの余裕もないエースの中がビクビクと体ごと動いて素直な快楽を伝えて来た。片手で散々弄んだ乳首を押し潰すと、エースは最早力も抜けて揺すぶられているだけの上半身を悶えさせて口の端から新たな唾液の筋を光らせた。

「だめ、マルコぉ……腹ん中、変なかんじ…もっと強く、擦ってくれっ、よ……!」

 内側から頭に突き抜けて来る快感に、行き場の無い欲望を放出したいとぐらつく頭が横に振られるのにマルコが手の動きを早める。そのマルコの手に重ねるようにしてエースがもどかしく自分の性器を握った。

「エース…?」
「やっぱこれ、おれがやるから……マルコ、抱きしめてくれ…。おれ、マルコにそうするの、すげぇ、好きだから」
「――――――!」

 エースの左手がマルコの背に回り、請われるままにマルコは脇腹から回した手で強くエースの背を抱き寄せた。耳元で絶え間無く漏れる不慣れな喘ぎ方に一層角度を深めて突き上げると、お互いの腹の下で粘液質な水音が大きくなって来た。

「いく、いきそ……っ」
「…………エース……!」

 マルコの腰を引き寄せるようにエースの足が強く絡み付く。 マルコに抱きしめられたまま、大きく背をしならせたエースがとろりと勢いのない精液を腹に滴らせ、マルコも数回動いて最奥に捩じ込む様に射精した。 

「マルコぉ……」

 息を乱しながら、まさに発火しそうなほど熱いお互いの舌が絡みあう。赤子が乳を吸うような必死さで舌を吸われ、埋めたままの熱が年甲斐もなくもう一度疼きそうになったマルコが宥めるようにして口を離し、エースの赤く腫れた瞼に小鳥がするような優しいキスをした。
 エースがくすぐったそうに相好を崩し、ふらふらとおぼつかない腕を持ち上げてマルコの首に縋る。

「……マルコが、すっげぇ優しいから、嬉しい。でも、今度は抱かせてくれよ」
「今度な」
「へへ、約束だぜ?……なんか、幸せっていうか、世界が、ぐるぐる回ってる……」
「エース?」

 顔中を弛緩させて微笑んでいたエースの顔から急激に血の気が引いて行き、マルコは反射的にまわされていたエースの手を掴んだ。

「マルコ、おれ、気持ち悪……」
「待て!!ちょっと待て我慢しろ!エー…………」

 止める間もなくエースの頬が膨らみ、火拳の土砂災害はベッドと床、そしてマルコの喉から胸に容赦なく襲いかかった。
 びしゃびしゃとこぼれ落ちる生臭い滝に、マルコは為す術も無くエースの肩を握りしめていた。

「…………初めてで、一体どんなプレイだよい……」

 スッキリとした幸せそうな顔で意識を飛ばしたエースが惨状と化したベッドに沈み込む。
 自分の仕業故に殴ることも怒る事も出来ないマルコは、誰にも見せたことのない程情けない表情で盛大な溜息を吐いた。







作中の挿絵は「ウミネコ」(PCサイト)の豆太様より頂きましたvv



2010/07/20



たまには凹めよマルコ!!
まさかのゲ●オチで本当にすいませんすいませんすいません。嘔吐好きです…。
でも多分喜ばれると勝手に思っております(°▽、°)
先に某お二方にリクエスト頂いておりましたマルエーでした!
シチュは豆太さんより「たまには攻めたい気分のマルコと出来ればそれを回避したいエースの攻防」です。回避は物理的に無理だったかもしれないww
「マルエー書きたいかも」との呟きに反応して下さって本当にありがとうございますた。どえらい楽しかったです!!
なんだか私の書くマルエーは、基本スタンスから他の方の書かれる胸が痛くて切ないものと大きく方向性が違った気がします……これ、マルエーって言っていいですかw

リバは読むのはものすっごい好きなんですが、書く事が殆ど無いので攻めエースが受けに回ったらどうなんのと脳味噌グルグルして考えたら結局エロになったよ助けてお母さん!

ちなみにこの後お掃除はマルコ、臭いが消えるまでエースの部屋で生活です。臭い中々消えないのよね。
同棲っぽいのに理由が全く甘くない通常運行です。

今回あとがきが今までで一番長い理由は不安が結構大きいからです。
いいわけ終りww



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