ばさばさッ!!と激しい音でこちら側に落ちてくる物体、気配の大きさから言って人でしょうね。しかも、向こうは木の枝の所為でまともに着地するのは難しい。
そして、どすんっ…と大きな音と共に「痛ッ…ぁあ…ッッ!!」と言う痛みに悶えている人物。私はそっと腰を上げ、「大丈夫ですか?」と声を掛けた。
あまりの痛みで返事が出来ないようだ。胸の着物を掴んでいることから胸が痛むようだったので、淡い光に包まれた掌を胸に翳し…治療を施す。
青い着物に滲んだ…黒い染み、傷が開いたと言うわけですか。
なるほど、彼がファイの…………
「……ぅ…っ…、」
「まだ、痛みますか」
「…いや、助かった。」
呼吸が落ち着いてきた。
出血も止まったようだし、もう心配はないでしょう。
「貴方が、蒼月燿次郎さん」
「!?…なんで俺の名を」
「そう、貴方が」
そう呟いてから、私は…さぞモテるであろうその端麗な顔付きの頬に指を滑らせながら…妖艶な笑みを浮かべ
そして…………
「痛ッッッ……!!!!!」
「良くもファイを泣かしてくれましたね、蒼月燿次郎さん?」
「いきなり何するんだぁぁぁぁぁ!!この……ッッッ!!!」
「黙れへタレ、純情男。男なら好きな女性を泣かせるくらいしても良いけど、傷付けるなんて最低のすることですよ。
全く、女顔の男は女の気持ちを理解しない人が多いのかしらね。女顔の癖に」
「女顔女顔、人のコンプレックスを「黙らっしゃい、このへタレた女顔」…言わせておけば、初対面のアンタに言われる筋合いはないんだよ!!!!!」
思いっきり頬に伸ばした手を、横にずらし…その形のいい耳を勢いと力強く引っ張った。
彼の言うとおりだ、この問題に私が割り込む必要なんてない。
必要ないが…私は……
「初対面でも、貴方はファイの恋人なんでしょ?彼女の心の闇を理解してるのなら…傷付けるのは止めて」
「………………………
すまないが、もう一度……言ってくれないか?」
「傷付けないで」
「もう少し前だ」
「彼女の心の闇」
「もう少しだ」
「……初対面?」
「行き過ぎだ」
………あら。
どうやら、ファイの話を聞いて彼の存在を誤解していたようだ。
「ファイの恋人…では、ないのですか……?」
「…あ、はは…本当に…そうだったら、どんなに…良かったか」
グスンッ…と若干涙目の燿次郎。どうやら先程の発言はファイの恋人発言により記憶の隅にやられたらしい。怒りを通り越して、その背には哀愁が漂っていた。
あぁ…なんだか、あの子を思い出した。あの子も、良くこんな風に凹む何度かあったから………。
そう思うと、胸が苦しくなった。なんだか、彼にとても悪いことをしてしまいましたね…。
「すみません……耳、痛みますか?」
「いや、大丈夫だ………それより…アンタはファイを知ってるみたいだったが……」
「えぇ。ファイなら先程まで此処に居ましたから……」
「今あいつは…何処にいる?」
「燿次郎さん!」
「ハヤト…!」
「無事にこちらに来れたんですね。」
「まぁ…無事かどうか、不明だがな」
「ソフィア様…、顔色が優れないようですか……」
「大丈夫ですよ。…あぁ、でも……少し苦しいかな。彼を見てると…あの子を思い出して、苦しい」
「……そう、です…か」
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