燿次郎視点
数時間前―――。
ファイは彼女の弟子の世界にいることが判明し直ぐ様その世界に向かった。
病室でファイを怒鳴ったのは、任務の前日に見た夢が酷くリアルだったからだ。あいつを…ファイを失う夢を見た。他の男に奪われる夢。他の誰かに奪われる夢。
そして、ファイが泣く夢を見てしまったから。あいつは人を惹きつける、良くも悪くも…あいつ自身がそう言う存在なのだ。外見、容姿的な意味ではない。いや容姿も含まれるが…、
それでも…あいつ自体が人を惹きつける宝石のような存在なのだ。
俺もその一人だ。あいつに惹かれ、あいつを好きになり、あいつを愛し、あいつを守りたいと……考え願っている一人だ。
だから、怒鳴り…ファイを傷付けた行為はなんと愚かなのだろうと自虐的になったりもした。ファイの背に手を伸ばした瞬間、ファイは消えた。俺の元から消えた。
俺の傍から消えた。俺の腕はファイを掴めなかった。俺の脚はファイを追うことが出来なかった。俺の喉はファイを傷付けた。俺の目はファイを怯えさせたてしまった。
俺は、俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺………ファイを苦しめる存在になってしまった。
あぁあぁぁあぁあっぁぁあぁあっ……!!!と発狂するように叫び声を上げる。そんな俺を落ち着かせるために地面に俺自身を押し付け腕を捻り背に体重を乗せるロストとガラテア。
そんなことを構わず俺は暴れまわる。落ち着いたのは黒に打たれた鎮静剤の効果が現れ始める頃にだった。
次に目覚めたのは薬の効果が切れる一時間後、その間にフォンがファイの居場所を調べていてくれた。俺はいつもの青い着物と袴に身を包み立ち上がる。
身体の傷はまだ、完治には程遠いが……無理をしなければ傷は開かないと黒からのお墨付きを受けた。
ハヤトに連絡を入れれば、こちらに来るのは構いませんが…方法がないですよ?と言う正論をぶつけられて…気分は一気に落ちた。
そうだ、世界を飛ぶなんて技あいつにしか出来ない。すると、隣にいるであろう人物の声で希望の光が差す。
「そちらに美影一華と言う人間がいるなら、こちらに来れないでもないと思うぞ」と。美影一華…何処かで聞いた名だった。
フォンに視線を送れば、「ガーネットファミリーのボスの愛人がそんな名前だった」と…そんな返答が帰ってきた。
ガーネットファミリーはこのアカツキファミリーの次にこの世界の影響力がある組織だ。勿論同盟なんてものは組んでいない、双方には必要ないと思っているからだ。
お互いが同盟関係になれば、今まで以上に同盟を求めるマフィア共が増えるし…その分の影響力は計り知れない。ならば、同盟を結ぶなんてことは出来ない。
しかし、そんな心情とは裏腹にそのファミリーからの同盟の手紙など…一度としても来た事は無かった。
ガーネットファミリーのボスさんはその辺の分を弁えている…とファイも酷く感心していたし、一度対面を果たしたいとも思っていたらしい。
取り合えず、その美影一華という人間の現在地を調べてもらおうとした時にフォンのパソコンに可笑しなメールが届いた。
『今日の夜空は満点の星空と共に流れ星が降るでしょう。
此処で問題です。
貴方の見上げる先には青い空、貴方の見下す先には生い茂る木々……
さて、一体何を示してるでしょうか。』
「なんだこれは…」
「このアドレス、…まさか……!」
フォンがアドレスを見た途端、目の色を変えた。
その直後、もう一度メールが届き…そこに書かれていたものは………
『正解は………
蒼月 燿次郎が次に目にするもの』
一瞬自分の置かれた状況が分からなかった。先程まで病室に居たはずなのに、自分の立っていた足場はなくなり、代わりに広がる広い青がそこにはあった。
足場がなくなったという事は空中にいる…という事、ならば着地するために下の状況を確認しなければならない。下に視線を向けた瞬間、脳内にあの文面が蘇る。
”貴方の見上げる先には青い空、貴方の見下す先には生い茂る木々”
「美影一華…一体何者だ?」
そして、俺は着地した先で不思議な女と出逢った。
邂逅を果たすのに時間は必要なかった。
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