「なんで、お前は…!」
煩いッ…
「いつもいつも、無茶ばっかだ!!」
煩い煩いッ……!!
「俺はお前が……っ」
煩い煩い煩い煩いッッッ………!!!
気付いたときには真っ赤に染まっていた。
俺の視界も、俺の世界も、俺の大事な人も、俺の守ってきたものも…全部全部あの頃の様に真っ赤に………
俺はまた、
失 っ た ?
ぴとっ…と額に乗せられた、冷たい物質に浮上して行く意識にファイはゆっくりと閉じた重い瞼を持ち上げ深い藍色の瞳をそっと覗かせた。
「目覚めましたか?」と声を掛ければ、急に身体を起こし私を凝視したと思ったら、眩暈を起こし顔を覆う。額に乗せられていたタオルはくたぁ…とシートの上に落ちていた。
それを拾い上げ、ファイの頭を引っ掴みもう一度膝の上に乗せて再び濡れタオルをその額に乗せた。当然のことながらファイは驚きの声を上げる。
「い、いきなりなにすんだよッッ…!!」
「黙らっしゃい、このお馬鹿」
「黙ら…っ!?しかも、お馬鹿ってなんでだよッッ…!!」
「ハヤトぽく言うなら…このウスラ馬鹿、無理するからこう言うことになるんだ」
「発言は似てたのに、ソフィア自身は全く似合わない台詞ありがとう。それからなんで棒読みなのッ!?もっと感情込めようぜ!!」
「残念ながら私にそんな技術を求められてもね…?」
そう苦笑すれば、ファイは抵抗を止めて…どうして今現在進行形で自分が此処で寝ているのかを聞いてきた。どうやら、気を失うまでの記憶が飛んでいるようです。
だから、「寝不足で倒れたんですよ」と言うと…「そうか…」と一言返して、黙ってしまった。だから、そんな彼女に優しく問うように「ファイ」と呼んだ。
すると…ファイはぽつりぽつり、と重たい口を開いた。
「………燿ちゃんと、喧嘩したんだ」と。
先日任務で燿ちゃんが、俺を庇って怪我をしたんだ。傷は大した事無かっただが…出血の所為で数日目を覚まさなかった。
俺は傍でずっと看てた。ファミリーの皆に休めって言われても、俺は燿ちゃんの傍を離れなかった。だって俺の所為で怪我を負ったんだ。
目が覚めたら一番最初に謝って、礼を言おうと思ったんだ。
そして、燿ちゃんは目覚めた。俺は泣いて喜んだけど、燿ちゃんの様子がなんだか可笑しかったんだ。どうしてだろう…って思った瞬間燿ちゃんは俺に向かって怒鳴ったんだ。
「なんで、お前はいつもいつも無茶ばかりするんだ!!俺がそんな信用できないか!?
俺はお前にとってなんなんだよ!!俺はお前を……―――−-‐
俯いた燿ちゃんはまるで自分を責めるようだった。責めて責めて自分を戒めて、俺と言う存在が居るから苦しませた。
そう思った途端俺は逃げ出したんだ。いつも言われていることなのに、その日は何故か酷く燿ちゃんの言葉が胸に刺さった。痛い、痛かった…苦しかったよ。
これって…燿ちゃんの痛みなのかなって………思って、世界を飛び逃げ出した。
多分、燿ちゃんの看病してるときに…不意に眠気が襲ってうとうと…と微睡んだ時に見た数分の夢。いや、数秒の夢が…原因なのだ。
真っ赤な夢を見た。一面真っ赤で、悲惨で残酷に殺された…殺した死体、亡骸、原型なんて分からないくらいぐちゃぐちゃでバラバラで…。
見知った髪の色、今日来ていた服、濁った色の眼球、自分達の使っていた得物が地面に転がり、…もう誰の血か分からないくらい大量の血の上に自分一人が平然と立っていて…。
過去の自分と、過去に殺した人達が…ファミリーの皆になってて………。
「過去の夢を見るなんて……俺も相当参ってたんだな。」
そう苦しそうに語るファイは額に乗せたタオルと目元に当て、表情を隠した。
そんなことをしなくても私は見えないのに…と思いながらも、ファイから視線を逸らさない。
語り終えたファイは横に蹲り、小さく嗚咽を零した。その震える身体を起こしゆっくりと抱き締めた。
両腕を背に回し、優しく泣く子供をあやす様に……背を撫でる。すると、ファイもなんの抵抗もなく力強く私の背に腕を回した。
数十分後、泣き止んだファイは顔を洗ってくるといってこの場を去る。
そして…私とファイの相棒兼喧嘩相手の彼と邂逅するのは彼女が戻る数分前のことだった。
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