森の中、淡く光を帯びる美しい花の中に…彼女の姿は在った。池の中で両足を立て、しっとりと濡れた髪と薄く影を作る彼女の着衣。
月を見上げるその表情はこちらからでは窺うことは出来ない。けれども、…俺には…………。
ソフィアが泣いてるように思えた。
「ハヤト、…ですか…?」
ソフィアは振り向かないまま、俺の名を呼んだ。
俺は、一瞬気後れしたが返事を返す。
「あ、あぁ…」
「珍しいですね。こんな夜中に、どうかしましたか?」
「いや…あ、…別に…用が有ったと言うか、なんと言うか……」
歯切れの悪い返事に俺自身が苛々した。
言うならはっきり言え!と自分に言い聞かせながら「ソフィア…!」と今度は俺が彼女の名前を呼ぶ。
「何かしら…?」と…だから、俺は…。
「どうして、お前は泣かないんだ?」
俺は最初考えていた言葉とは全く違った言葉が出たことに驚いた。
ソフィアはその言葉に、きょとん…としてからそっと視線を下へ下げる。そして、「…そうね…」と言いながら…
「”泣けないから”…とだけ」
prev next