「あ、一華さん…お帰りなさい!それと………お客様かな?」

一華「そうだよ。」

「了解しました!早速だけど、服も髪も濡れてるでしょ!お風呂入っちゃてよ。予備の服とかも準備しておくし」



ね?と有無を言わせないこの人は……誰だ?と、思う暇も無く脱衣所に背を押され連れて行かれた。

初対面(?)の人様のお家でいきなりお風呂をいただくと言うもの…あれだし、でも…寒いし服とかもびちょびちょで早くお風呂に入りたい!

矛盾していたけれど、本能には逆らえない。目の前の誘惑に、うん…負けた。服を脱ぎ捨て傍に置いてあった籠の中に入れる。

棚においてあったタオルを一枚取り、控えめに開いた扉の先には…とても広い風呂が有った。

湯船からは湯気が立ち、いくつか浴槽に浮かぶ黄色い物体……これは、柚子だ。手にとって香りを確かめれば…うん、柚子で。

人様の家の風呂であることを忘れて長湯をしたい願望が湧いてくる。そう思った途端行動は早かった。身体と髪の毛を洗い、直ぐさま…湯船に浸かる。

あんなに冷えていた体が一気に熱を持ち始めた。血管が広がり血液の廻る感覚はとても、心地の良い物で……。

ふぅ…と腹の底から息を吐き出せば、一気に疲れが抜けていくような感覚がした。




そして、このとき私はこの後の悲劇をまだ知らない。
















ミルキ「はぁ……、気持ちいい…」




湯船に肩まで浸かり、目を瞑る。うとうと…と微睡み始める意識にやばい、と感じながら浴槽から出ようとした


その時、






ガラッ






「え…?」

「はぁ?」





風呂の扉が開かれ、扉の前に立つ人物と目がばっちりと合った。口の端が引き攣った。

色素の薄い茶色の髪の毛に鋭い目付き、既に人一人殺ってきたような雰囲気の少年。歳は自分と変らないくらいだろうか。

ぎ…、と悲鳴を上げようとした瞬間、私が悲鳴をあげる前に扉を開けた人物が悲鳴を上げた。


「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
彼方さん彼方さん彼方さん彼方さん彼方さん彼方さんっっっっっっ!!!!!
風呂に知らない女がいるんだけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!?!?!??!」


ミルキ「(唖然)」







少年は顔を真っ赤にして、一歩二歩と後退し…そしてそのまま脱兎の如きスピードで脱衣所を出ていた。

え……?反応的に逆じゃね??

なんて、思いながら脱衣所へ向かい用意されていた下着を身に着け服に着替えた。






そう言えばこの後何処へ向かえばいいんだろうか?すると、後ろで聞きなれた声が聞こえたので振り返ってみれば、眼鏡を掛けた一華さんが文庫本を持って立っている。

いつも来ている黒いコートは脱いでいて、深紫色の厚手のタートルネックと黒いズボンを履き、足は素足で…隻眼の目によく合う白い眼鏡をしている。

あ…意外と眼鏡が似合うと思いながら視線を向ければ……。







一華「一体なんの騒ぎ?」

ミルキ「茶髪の子に風呂を覗かれました」

一華「雪君に?あの子にそんな度胸はないと思うけど……ミルキちゃんが入ってるの知らずに入ってきたのか」





そっか…と言いながら、状況を理解する一華さん。

流石だな、アメさんだったら…「何処の誰がそんな愚かなことしたんだ?あ”ぁ”??」とか言いながら相手を殺しに行くんですね、分かります。







一華「寒いから移動しようか」

ミルキ「ですね」









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