「ソフィアは恋愛とかしたことある?」

「うーん…、どうだったでしょう……。あるようなないような?」

「結局どっちなのよ」

「多分、あるんでしょうね。だけど、あれは…………」









恋と呼ぶには焦がれ過ぎた。

愛と呼ぶにはまだ、遠い。


恋愛とも呼べない、途中半端で曖昧で不確かな感情。名前もない想い。








そう言って、視線を空に向けた。薄暗い鈍色の空からは…降っていた雪は止んだようだ。ソフィアはそれに気付いていないようで、傘を閉じる気配はない。

だから、私も言わないままこの距離感を守った。ぎゅっ…と、体温のない手を握ればやんわりだけど握り返してくれる。

嬉しかったが、同時に胸にモヤモヤとしたものが生まれる。ソフィアの恋愛の相手に嫉妬。嫉妬…?





あぁ…そうか。







「好きだったんだ」

「?」

「私ね、ソフィアの事が好きみたい」

「それは、」

「恋愛って意味で…恋してたんだと思うよ」







手を離して、思いっきり抱きついた。その途端ソフィアから飛んだ、桜の香りが鼻腔を占める。肺を満たす香りは彼女の物、それだけで…この雪の冷たさは無くなる。

単純だろう。可笑しいだろう。なんとでも言えばいい、だけども…この想いは本物だ。「ねぇ…ソフィア、私は変かしら……」と。

すると、ソフィアは「………」無言だった。困らせてしまった。


だから…私は。







「冗談!さっきのお返しよ!!」





強がって見せた。屋敷までの距離は後数メートル程、ソフィアの傘から出て走り出す。

涙を見られないように、見せないように…。強がってるけど、でも…言えたよ。自分の想いを…伝えることが出来たよ。




もう、十分だよ……。








「  ヒカリ  」




ソフィアの声に足はぴたり…と、止まった。振り向くことは出来なかった。振り向いても彼女の目は見えない。私の姿は見えないのに、振り向くことが出来なかった。

さく…さく…と、雪を踏む音がする、ソフィアは近付いてくる。そして、後ろから…そっと、手が伸びて、抱き締められた。

真っ白な羽織の袖と、その色と同化する手袋…。両手を交差させて私の身体を包む、ゆっくりとした心拍数が…布越しに感じ取れた。



ふわり…と飛んだ香りに再び、心が温かくなった。






「ヒカリ、……」…耳元で、囁かれる名前に…心臓の音が大きくなっていくのが分かった。どきどきっ…と、音が響く。

その先の言葉、…私の欲しい言葉は…きっと言ってくれないのだろう。だって、ソフィアだもん。私だけの、なんて…欲張り言っちゃ罰が当たっちゃうな。

すると、ソフィアの腕はす…と、解かれ……すぐさま振り向けば…「やっと、こっちを向きましたね…ヒカリ」…。

二つの目が私を写し、私の目もソフィアを写す。そして、薄く色づいた唇から…






「ごめんなさい…、」と「…ありがと、好きになってくれて」

…言って私に向かって微笑んだ。

とても、綺麗で…儚くて、温かくて…。止まったはずの雫がもう一度頬に伝った。









落とした傘を拾ってからソフィアは私に背を向けて行ってしまう。

真っ白な羽織と真っ黒な着物、その着物に住む青い蝶と白い桜…。

雪に溶けるような色彩は音も無く影も無く、しんしん…と降る雪の中に消えていく彼女の姿。





ソフィアと呼べば、そっと…振り返った。

そして、………









「私も、好きですよ。ヒカリ」





夢の、ソフィアの言っていた言葉が漸く聞き取れた。

でも、この言葉はきっと…愛ではなく…友としての、言葉。自然と笑みが零れた。





(発症していることが分かって)
(皆には言えなくて、辛くて、…悲しくて)
(もっと、居たい…皆と居たいと願ったとき、生きたいと願ったとき)

(貴女は、夢をくれた。)
(”生きればいい”と)
(”共に居ればいい”と)

(そう言ってくれたのは貴女だけだった)
(だから、私は貴女を好きになったのかもしれない)


(ありがとう、ソフィア)




そして、これが私達の最後の時だった。



title:確かに恋だった




⇒ あとがき

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