次に目を覚ましたは空の色が橙色と紺藍色のグラデーションに染まって仕舞った頃、酷く見覚えのある茶色の木目の天井。高くつまれた、古い本。磨りガラスの扉。一つだけ見覚えのないのは腹に掛けられた薄い桃色のタオルケットだけ。すると、壁に掛けられた時計が低い音を鳴らしながら時刻を知らせ始めた。

時刻は六時を過ぎた所だ。今日の練習は終わってるだろうな、…確か体育館に業者が入るとはなんとかで…練習は四時頃に切り上げるって言って…、………ん……?




「練習……?」




この言葉に血の気が引いていく。あぁあああぁあぁああああああぁあぁあああぁあぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!リコちゃんには練習終了までに戻ってくるって言っておいたから尚更ヤバい!!その時に、携帯が自身の存在を主張するような振動音が聞こえた。びくっ…。あぁ…すっごい嫌な予感。携帯に出たくないな、とっても出たくないなっ…!!履歴とか予想するまでもなく…怖いことになってると思うから。←





「出ないのか?」

「出たくない…っ!でも、出ないと怖い!!!」

「そうか。」






いつの間にか、扉の前にいた春さんは鳴り続ける携帯を手に取りそして…―――。






ピッ――。

「もしもし、」の一言。






何普通に出てんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!?!?!?

え?春さん、それ俺の携帯だよね??なんで宅電の様に出られんの!?!?








「……先程、突然のお電話申し訳ありませんでした。住所は貴女のお祖父様がご存じの通りでございますので。


では、後程に。」







ピッ。




「ほら、帰る準備しろ。」

「ちょっ…!!!ちょっと待って、春さん!!今の誰だったの!?しかも、電話って、どういうこと!?!」



あまりに急なことで、思考が追い付かない。春さんは電話の主と知り合いで。しかも、お祖父様って??









「゛ 白祈院 和政殿 ゛」











何故、今その名が出るのか訳が分からなかった。そして、春さんはどうしてその名を知っている?湧き上がる疑問、何故、どうして…。そんなことを思いながら、答えを聞くために口を開いた時、春さんは「うちの古馴染みの客だ。」と。

あぁ、今日1日で驚きとか戸惑いとか混乱で酷く疲れたなぁ……。あまりの、疲れに無意識に腹の底らから息を吐き出す。はぁ…。視線を下に向ければ、再度あの薄い桃色のタオルケットが目に入る。薄い桃色?桃色…?ピンク……。桜…。桜…?








「煩いですよ」


「…ぁ………」




不思議な色合いが鮮明に思い出される。無意識に唇をなぞる指先。まだそこに…あの女性(ヒト)の冷たい熱が残っているようで、無意識に涙が溢れた。あぁ、どうしよう、と。



「おい、白祈院……って、どうした?泣き出したりして、具合でも悪くなったか?」



俺の荷物を持ってきた春さんは俺の今の姿に驚いたようで、菫色の瞳を僅かに大きく開かせた。そっと、膝を折り目線を合わせる春さん。ぽろぽろ、と溢れだす雫に止まる様子はない。「どうした」春さんは俺の頭に大きな手を乗せ、こつんっ…と額を合わせた。熱の計り方だった、気がするが本当に計れているかは正直分からない。次に、両手を首筋に当て、計る。


不意に昔のことを思い出す。昔俺が熱出した時父さんと母さんが揃って、こんな風に熱を計ってくれたこと。小さな体温計を脇に挟んで計るより、ずっと…この計り方が好きだった。まぁ、今ではしてもらう機会なんて全くと言って良いほどないが…。春さんの額が離れ、目が細められた。……離れた体温に、少し寂しい気分になる。







「熱は無さそうだな。…ポカリでも、持って来るか?」

「………いい。ねぇ、春さん」

「なんだ」

「春さんに聞いて欲しいことがあるんだ」

「……言ってみろ」


真っ直ぐな瞳、あの人とは違う力を持った瞳は、見詰められただけで…

全てを預けられるような錯覚を起こさせた。








ゆっくり、と…口を開き俺は……、




言葉を紡いだ。









「子供が出来た」と。













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