雪那視点


日暮古書店では、開店前と閉店後に冬以外は店先に打ち水をする。

打ち水とは、庭や道路、屋外に水を撒くことを言う。昔から日本に存在する風習で、主に涼を取るためや場を清めるという神道的な意味合いもあり、来客への気遣いの一つとされていた。

今は打ち水をする家は少ないが、俺の所はこの店が出来てからの習慣としている。そして、今日は諸事情により営業を午後までとしていたので早めに店を閉めることにしていた。午後三時前、この時間帯に水を撒いても意味がない。だから、表を箒で掃きそれで終了とする、……筈だった。

箒と塵取りを持ち、扉を開ける。ベルの音、あ…なんか外れそうだな。近い内に直さないと。そんなことを思いながら、ちりちりと焼け付くアスファルトに視線を落とした。

俺はそれを目にした途端、行動は早かった。箒と塵取りを投げ出し、俺よりも遥かにデカい男に駆け寄る。






「おい…!!大丈夫か!?」

「……、………」

「(意識がない…っ…。ここで倒れて何分だ!?)」




焦りが生じる。ここら辺は、駅近くなのに交通量があまりない。それでいて、極端に道幅が狭いのだ。小型の車が傷を作るか、作らないかくらい狭い道路。勿論この道幅で救急車などの緊急車両は通ることは出来ない。だから、緊急の場合は救急車を数十m離れた場所に止めてから呼ぶか、直接病院に向かうしかない。

俺は専門家ではないから、この男が何でぶっ倒れたのか分からない。厄介な病気で倒れたのかもしれない。それとも熱中症か、はたまた別のものか。何はともあれここに置いとけば確実に悪化する。最悪死ぬかもしれない。ならば、直ぐに店に運ばないと。その時、細い路地から出てくる数人が声を掛けてきた。




「春川さんだ。どうしたんすっか?」

「あー…荷物も大変なことになってるけど、ぶっ倒れてる男と喧嘩でも?」

「なんだと…!?なら、俺たちも呼んで欲しかったっす!!」







しかも、何故か知らずの内に出来ていた舎弟と言う奴ら。正直に言うと俺はそんなものつくった覚えなんてないが丁度良かった。







「おい、お前ら。こいつを店の中に運ぶのを手伝え!!」




そいつらは状況をなんとなく察した様だ。頷くのを確認し、俺は一度店の裏口から入り…この巨人を運べそうなものを探す。そして、部屋にあったタオルケットを持ち出した。









「よし、1・2の3で持ち上げるぞ。良いな」

「「「うっす…!!」」」

「…行くぞ。








1・2の3……!!」





タオルケットの端と端を四人で持ち、室内へ運ぶ。クーラーの利いていた部屋は涼しく、古書でいっぱいなのが申し訳ないがそんなことは構ってられない。男を部屋に寝かし、冷蔵庫まで走る。冷蔵庫の扉を開き、冷やせるものを探す。氷枕、冷えピタなど手短なものを引っ張り出す。

部屋に戻ると三人が心配そうな顔で「他にするとことかないっすか?」と問うような目をしていた。なので、表に散らばっていた荷物を持ってくるように言うと何故か俺も熱さにやられたのか…犬耳が見えた気がした。ぱぁあっ…!と効果音が付きそうなくらい明るい顔をして、「「「取ってきます…!!」」」と走り出した。おい、慌てんな。転ぶだろ!危ないだろ!?これ以上病人、怪我人増やすなよ!!?

なんで、俺がこんな心配しないとダメなんだよ。とりあえず、氷枕を頭の下におき…額に冷えピタを貼る。このクソ暑い中、真っ黒な制服を着込んだ男の制服を脱がせ大きな血管のある脇に氷を詰め込んだ袋をタオルで包んだ状態で挟ませる。それから、足の付け根にも同じものを乗せた。

応急処置、俺が知る限りで出来ることはこれくらいだ。後は専門に任せるしかないな……。ポケットに突っ込んであったスマホを取り出し、操作する。そして、スマホを耳に押し当て、数度のコール音の後。「もしもし?」と言う声。








聞き知った声に、安堵の息が漏れる。それから返事を返すように「もしもし――」と。

















prev next


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -