「だめ…。私はこっち、見たい」

「えぇ!俺はこれが良いのぉ…!」

「唯って…実は昼ドラとか好きなの?でも、これだけは譲れない」

「じゃ…春さんに決めてもらうのは?」

「……童貞やr……春さんはどれ見たい?」

「おいコラ、遊…テメェなんつった。






てか、俺クレ●ンしんちゃん見たんだけど」



「「その歳と外見でしんちゃんチョイス!?!?!外見に似合わず可愛いね…」」

「遊が標準語になるくらい、びっくりしてる…」

「お前ら俺に対しての認識が失礼すぎるだろ!!!!」


「「「だって、春さんだし」」」

「唯…頼むからお前まで参戦するな!!」




俺はこの黒髪組を連れてきた事をひたすら後悔した。

てか、DVD借りるだけでなんでこう…一苦労なんだ?と思う俺は本気で保護者(又は苦労人)ポジションキープしてるんだよな…。





今俺達学生組+ミルキは近所にある大型ビデオレンタル店のゲ●に来ていた。去年から旧作全品100円セールという物をやっているのでな。

ちなみに俺が借りたしんちゃんの映画は、アッパレ戦国大合戦のしんちゃんだ。好き過ぎて…遊にダビングを頼むくらい好きだった。実写の映画の方も見たし。

しかし、先日ダビングしていたDVDが一華の足によって破壊され(よは、踏まれた)遊のパソコンにあったデーターは既に削除済みだったのことで、再び借りる羽目になったのだ。




それと、螺鬼さんとやらもミルキに着いてきたのだが家の方で一華と話があるそうで留守番中だ。一体何の話かは聞かないのが、あの家に住む俺達のルール。

そして、先程借り終えたので…今は一番最初に何を見るかと言う相談だ。ちなみに、俺はしんちゃんで。唯が大奥(意外と昼ドラとか時代物が好きらしい)。

遊は未来日記と言うアニメを借り(近日ドラマ化するとか)。ミルキはハンターハンターのヨークシン編を借りたらしい(え…?この作品でそれ見るの?)…ツッコミたいが我慢だ。

その時、唯は「あ…」と声を漏らした。嗅覚を擽る甘い香りと唯の視線の先を辿れば、クレープの移動販売をしていた。食いたいわけか。

だが、ミルキに対して遠慮しているのだろう。ミルキはある意味拒食症だからな…。唯の視線はそれでも、移動販売車に向いている。




「…………」

「はぁ…。おい、遊とミルキちょっと来い!」

「「うん?」」

「クレープ食うぞ」

「春さん…?」





唯の腕を引き、クレープの移動販売車に向かう。その後ろを追ってくるであろうミルキと遊から何にするか聞くと、二人とも言い出そうとはしない。

溜め息を吐き、遊と唯の好きな奴を頼む。ミルキに甘いものを大丈夫かと聞けば、遠慮しがちに自分は食べれないから…と断りを入れる。

もう一度深く溜め息を吐いてから、俺はエビグラタンが入ったクレープを頼み金を払った。暫くして出来合ったものを遊と唯に渡し、俺のも受け取る。

移動販売車の近くには公園があったのでそこのベンチに腰掛けてから食う事にした。




「ほら、ミルキ…一口ぐらいは食えるだろ?」

「え…?でも、……」

「全部食えと言わないが、食える分だけ食え。残ったのは俺が食うから」

「……春さん?」



怪訝そうな顔で俺を見るミルキ。それはそうだ、誰が好き好んで…他人が口にしたものを食べたがるだろうか。女友達同士や姉妹では食べ比べがよくあるらしい。

それを除けば、後はストーカーとか変態くらいか?。残念だが、俺はそのどちらにも当てはまらないがな…。




「”同じ空間にいるのなら、同じ物を共有しろ。それは、相手に対しての礼儀でもあり…信用の証でもある”」

「どういう意味?」

「俺達は今同じ空間にいる。俺達が話すと言う事は、周囲に対して今此処には俺達の空間が此処にありますよって言っていること。

飯を食う時、顔を揃えて同じ物を食うのは共有してるという証。本を読んだとき、外食した時、掃除した時、怪我した時。

この本は面白かったって言って他人に勧めるのは、話を共有したいから。外食で誰かと同じ飯を食った時、美味しかった不味かったと味を共有したいから。

掃除して綺麗になったねって言われると、この場は他の人が思うほど綺麗になった思うから。怪我をした時、その傷を見て顔を歪める人は、その痛みを無意識に感じ取るから。





分かりやすく言うと…、同じ物を共有するって何気ないことなんじゃないかって話。

そして、同じ物を共有するってことはそれだけ…相手を思っているってことなんかじゃないのかってこと」






長々しい話に、正直疲れた。

てか、前文は俺の言葉ではなくソフィアさんからの受け売りだ。後半は殆ど俺の想像だし。正直、俺の解釈があっているのかすら不明だ。

コーヒー飲みたいなって思っていると、なにやら横からの視線が痛いぞ……。





「春さんって意外と詩人だね」

「流石ぁ…、古書店の店主だけはあるねぇ……」

「書面上は一華が店主だ。俺はそのバイトの位置付け」

「でも、将来的には……一ちゃんから…貰うんでしょ………?」

「そうだな。元は祖母ちゃんの所有物だし、あの店の経営で十分食っていけるしな」

「…………






じゃ、春さんは…20になると…家…出るの?」






きゅ…と服の袖を掴まれ、唯は俺を見上げた。猩々緋色の瞳が、僅かに揺らいでいる。この目は、行かないで…と子供が親に訴えるような目だ。

一華の家に住む子供の共通点は親無しと言う事だ。幼少に親は失った。幼少に親に捨てられた。幼少に親が死に、子供だけが残された。幼少に親から暴力を振るわれた逃げてきた。

幼少に色々と問題を抱えていた子供が集まる場所、それがあの屋敷だ。俺達を育てると言う事は、一華にとっては娯楽でしかない。

退屈しのぎの、暇つぶし程度のこと。実際は知らないが。あいつにはあいつの目的があり、それを達成するまでの遊びでしかないのだ。

まぁ…その遊びや娯楽、退屈しのぎで衣食住共に保障されているのだから別に良い。孤児院や養護施設に行くよりずっと、マシだ。

ぐしゃっ…と指通りの良い黒髪を乱暴に撫でた。それだけの行為であの猩々緋色の目は変る。





「家は…そうだな。その時になってから、考えるよ」

「…………春さん」

「ある日何も言わず消えるなんて事はねぇよ」






そんな残酷で、最低な行為……俺はしないよ。

そう言えばソフィアさんはこんなことを言っていたな。






「”友人”と”他人”の境界線は…相手とそれを共有するか、しないかではないでしょうか?」





俺は自分の友人であるミルキに俺達と同じ物を共有してもらいたかっただけ。

ただ、それだけの話。







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