※本番ないけど微裏注意


緋色の櫛が髪を梳く。

灰色とも茶色とも言えない色、
独特の形に切り揃えた、指通りの良さそうな、長い髪。

目覚めたニースの目の前にあったのは彼女のそんな髪で。
思わずそれに手を伸ばした。

『…目、覚ましたか』

先程まで繋がり合ったとは思えないぶっきらぼうな口調に苦笑する。

「…こういう関係なんだから、」
『ん?』
「別にそんな…喋り方じゃなくたって良いじゃないか」
『悪かったな、私は元からこんな喋り方だよ』

幾多の恋敵を出し抜き、彼女と晴れて付き合う事になった。
今まで言い寄らなくても女の方から寄って来られたニースにとって、他者を退けてまで欲しいと思った女は初めてだった。

それだけでは飽き足らず、彼女を抱いた。
事前に何も言わず、かなり強引に押し倒して。
抵抗は激しいだろう、という予想とは違い、彼女はあっさり身体を許した。

それも彼女の部屋、で。

日本が誇るという国花、桜が飾られた部屋。
無数に彩られたピンク色が、まるで桜の海に埋もれる気分になり、奇しくもニースの欲情を助長させた。

「…こっちへ来てくれないか」
『どうした』
「物足りないんだ」

カタ、と櫛を置き、咲良は振り向いて布団へと近付く。
近付いてきた彼女を抱き締めようと腕を背中に回そうとするが、やんわりと拒否される。
なんで、と言いかければ先に彼女の口が開く。

『頭上げろ』
「なんでだ」
『良いから』

納得できないまま半身を上げる。
もう良いぞ、という声で半身を下ろせば後頭部を包み込むように何かが当たる。

「これ、って」
『…膝枕。嫌か?』
「…いや、全然」

見下ろしてくる咲良の視線。
太腿の上で自然と上を向く形になるから、当然視線がかち合う。

『…私を抱きたいとは、奇特な男め』
「…そうかな。」

自嘲するかのように、虚ろに微笑を浮かべる彼女。
そして周りを囲う長い髪。

ニースは髪に指を絡めた。

咲良は薄汚れている気がして自分の髪の色が好きじゃなかったが、

ニースは好きだと言った。

まるで気高い獣の色のようだから、好きだ、と。

特異な動物が多く生息する国の人間だから、そう言えるんだろうか。
咲良にとってその感性は少し羨ましかった。

「俺からすれば、逆に君の方が不思議だ」
『?』
「…世界を制覇した君達が、バカにした挙げ句負かされてるような奴を、気にかけるなんて」
『…ビックリした、お前が自分を卑下するなんて』
「え」
意外そうに開かれる咲良の瞳。
だがすぐに表情を戻すと
『かと言って、お前それで私を諦めるつもりなどなかったんだろ』
「当たり前だ」
『卑下してる意味がないじゃないか…

まあお前みたいな奴が自虐してても困るし調子狂うし、お前はずっと私の腹立たせる奴でいろ』
「何なんだそれは」
『…私も知らんがな』

ふい、と視線をニースから反らす。

『だがそう言われるとな…

私、他に好きな人いたんだけどな』
「へえ」
『あんたよりも凄く才能あるし、凄く優しい、性格のいい人だったのに』
「え、そこまで言う?」
『好きな人がいたと言った時点で突っ込め』
「俺に惚れさせてるんだから問題ない」
『本当に腹の立つ奴だなお前』

ニースが半身を起こす。
もう終わるのか、と判断し咲良は立とうとしたが、その刹那腕を捕まれ気付いた時にはニースに組み敷かれていた。

『…まだやるのか』
「物足りないって言ったじゃないか」

しかし押し倒して来ながら、ニースは咲良の髪を一房すくい口付けるだけ。

『押し倒してきてそれか、焦らしてるつもりか?』
「どっちが焦らしてるんだか」
『どっちって…』

「…求めるのが俺ばっかりじゃ寂しい」

視線を合わせる。
物欲しさと寂しさと、切なさと熱情、といった複雑な感情が入り混じった碧色の瞳。

「君に思いっきり俺の物って印付けたのに」

咲良の胸元に点々と咲く赤い華。

「君は過去の男の話をするし」
『なんだ、妬いたなら素直に妬いたと言えば良いものを』
「…認めるなんて、悔しい
君をこう出来るのは俺だけでいたいのに

俺は堪らなく君が欲しい。

…君に、溺れてるんだ」
『サーファーが溺れてどうする』
「例えだよ!興ざめするからやめてくれ」

ああもう、とニースは手を額にやる。

そんなニースに咲良は少し溜め息をつく。

『あのさ、ニース』
「、なんだい?」
『私はな、確かに好きな人がいた。
でもそれは過去の事。
抱かれれば誰でも良いってアバズレじゃないんだよ』
「、…」

『…お前は私の心を掻っ攫い、挙げ句お前への想いに溺れさせたんだ!
全く、なんて事してくれたんだ』

顔が紅くなるのを感じつつ、羞恥を堪え言い放つ。
するとニースの目の色は先程とは違い嬉々としたものへ変わる。

「…ま、俺はビッグウェイブスだからな。
押し寄せて掻っ攫うぐらいはしてやるさ」
『上手いこと言ったつもりか』
「…じゃあ、」
『あん?』

「君から求めてくれよ。」

『…。

全く、本当に腹の立つ奴だな』

言った言葉とは裏腹に、微笑を浮かべ。
咲良はニースの唇に噛み付くように口付けた。


押し寄せる
愛のカタチ

(互いに溺れ合う)



weight in the water」様に提出させて頂きました。
たまにはこういうのも

2012/4/8(SUN)


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