01

困った。
気づけばもう何度目になるかわからない溜息が口元から零れた。
ソファに座り、壁に項垂れるようにしている。猫背がさらに丸められ、少し明るい色の前髪が顔を隠す。見ているとまるで手負いの野良猫だと思った。

無言を続ける彼の空気らあまりに威圧的で、こちらを完璧に遮断している。それゆえ聞きたいことがあるのに憚られたままでいる。

「何があったの、どうしてあの場所に居たの、そもそもあなたは本当にあの犀木集星なの。」

冷蔵庫が不意にブーンと音をたてた。時計に目を遣ると23時をまわっている。明日は1限から学校があるし、いつまでもよくわからない男がひとりぐらしのこの空間に居るというのはやはり落ちつかない。

手元のスマホに手が伸びそうになる。何度もそうしたいと思うがまさか本当に彼にかけられるはずもなく、まして彼の友人なら尚のことに思えた。

もはやどうしろというのか。身動きのとれないように思えるこの状況に、喋ろうとせずただ無気力に、それでいて殻に籠ったようにして居るだけの男にうらめしさが段々とつのっていく。

なぜ、私はこの人を家にあげてしまったのか。改めて考えてみるとやはり不思議だ。本当なら、この人がウチのドアの前で倒れているのを見つけた時点で警察でもなんでも呼ぶことはできた。それがおそらくまともな判断だ。あるいはいまだって、もしかしたら丁重にお願いすればこの人は自分から出ていってくれるかもしれない。それなのにそのすべてがよくないように思える。

なぜ、なぜ私は放っておけないのか。浮かぶ理由はあるが、それはない。だって、そんなはずあるはずないのだから。だが、変わらず静かにい続ける彼を見遣るとやはりあの人を思いだす。重ねてしまう。

犀木集星、ロックバンドthe plutoのボーカルギター。

[ 6/8 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -