Hello

1.手紙が届けられた。差出人は一週間前に亡くなっている。

 彼女の亡くなった翌朝、彼女の研究室で、彼女のアシスタントアンドロイドが発見した。司法解剖が行われた結果、警察は自殺と判断した。そして今日、私宛にこの手紙が届いた。まず書かれていた名前に驚いた。次に内容を読んで更に驚かされた。あまりの衝撃にあと一歩で手紙をぐしゃぐしゃにして破り捨てそうになった。いや、いっそ手紙の内容も、彼女の死すらも無かったことにできたなら。そう信じて手紙を破り捨ててしまえたなら、どんなに良かったものか。

 気がつけば煙草がなくなっている。おかしい。朝に封を切ったばかりの筈なのに、いまのが最後の一本だったか。腕時計を見れば13時半を少し過ぎた所だった。一度部屋に戻ってから行く事にしよう。

2.エレベーターが75階をさす。ドアが開くと既にシュウが立っていた。シュウは私の顔を見ると、いきなりげんなりした表情を見せ、おもむろに己の眉間を指しては二度、とんとんと叩くような素振りをした。

「お前なぁ、ここ、皺、すんげえことになってるぞ。」
「五月蝿い、黙れ、沈めるぞ。」
 
 そう言うとシュウは更に顔をしかめてみせた。我ながら辛辣な言葉だとは思うが、今はただただ緊張と苛立ちしか感じられなかった。冷静さや気遣い等、今の自分にはない。

 手紙に同封されていたカードをポケットから取り出して機械に通し、虹彩認証もパスする。こんな古いタイプのものがまだあったとは、それともこれも彼女が造ったものだろうか。

 赤いランプが青に変わる。ロックが解除され開いた扉の先に、一体のロボットが立っていた。

「で、これが。」

 部屋の中心に静かに立つロボットを見つめたままシュウに問う。

「そう、これが。」

 一面ガラス張りの部屋、見通しが良く日射しのせいでとても明るい。デスクと椅子、必要最低限の機械とそれからなぜか旧式のPCがあった。

「『i, ROBOT』のサニーみたいじゃないか。」
「…それも昔の映画か」
「昔って云う程昔じゃないわよ。2004年、Will SmithとBridget Moynahan。」
「お前とは一度、昔とはどこからを指すか、について話し合う必要があるらしい。」

 一般に普及されているものとはかなり異なる、ということはその姿から一目瞭然であった。だが、それは見た目だけではなかった。スキャナーで外側からは見えない内部を観察していけば、仕様されているパーツひとつひとつからして全く違うことが分った。

「これは…」

 思わず出た言葉。それにシュウが反応し、口元を僅かにあげた。

「よくもまあこれだげのものを一人で、しかも秘密裏に完成させるなんて、やっぱり恐ろしい女だな。」

 大部分がおよそ100年前に使用されていたパーツで構成されている。現代の部品もあるが、それは主にこのロボットを守る為の外装に多く使われている。ほとんどの内蔵部の部品は、金属製のネジ、プラスチック、チタン、シリコン…そんなもう使用されていない物で成っていた。

「起動させてみて」

 シュウがスイッチを入れると額部分が青く、心臓部分が赤く灯った。瞳が開く。

「ますますサニーみたいだ。」
「そうなの?あとで見せてよ。」
「自分で調べろ。」

 シュウがため息を吐くのが聞こえた。

 ロボットが口を開く。

「こんにちは、私の名前はステラです。あなた方のお名前を伺っても宜しいですか。」
「燈月雪。」
「俺は満咲修、よろしくなステラ。」

 



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