煙草

 煙草を吸うのは寂しがりやと聞いた事がある。ならば私の家族はみんな寂しがりやだったのか。
 祖父はキャスター、祖母はセッター、母は昔からケントワン、父はラークだったが、最近は母と同じものをのんでいる。私は吸わないけれど、二十歳の誕生日、好きな人がかつて吸っていたと云うラッキーストライクを駅前の煙草屋で記念に買った。美容院とコンビ二に挟まれ、本当に煙草を売る為だけに設けられたスペースと云う感じの小さな店で、店主のおじいさんは定年を迎えて余暇に切り盛りしている様でよくナンプレをしているのを見かける。
 暗闇のなかで明滅するその光はどんな灯りよりも特別で、貴方の手や煙をはく口はとても切なく愛おしい。唄う人だから、吸わないほうが喉にいいのに。だから私も吸わないのに。キスしたい。きっと煙草の味がするのだろう。きっと苦い味がするのだろう。
 愛を伝えるのは言葉なら容易いけれど、それ以外の、例えば仕草やスキンシップを通して表すこともできるだろう。それを音楽に託す人間も居て、でも貴方の場合は愛もあるけれど、決して男女の恋慕によるものだけではない。心のうちから貴方を叫ぶその声が大好きで、私はどうしたら伝えられるかなと悩む。試しに手にしたラッキーストライクはついぞ一本も火が灯る事なくいつの間にか捨てられてしまっていた。私は私なりの方法でこの人に思いを伝える業を見つけなくてはならない。2015.9.3

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