水浴びのすすめ


カモメなのだと思えば確かに、いろいろ合点がいくことも多い。案外、お風呂場で目を合わせてくれなくなるのもそうだったりして。
聞くに、野生のカモメは海で餌をとる都合上、翼についた塩を落とすために淡水で水浴びするという。人間にとっての風呂と同じだ。そして風呂嫌いの人間がいるのと同様、鳥にも個体差があって、中には水浴びを好まない子もいるそうで。この鳥もまた、特段塩抜きの必要がなくなった今の生活においては、極力水浴びを避けたがっているのではないか……というのが私の推測であった。
でも一緒に暮らす以上、一応風呂には入れ。
鳥は必要に応じて自ら水浴びをするものだが、元々が野鳥なのもあり、最初は衛生面の不安から始めた手洗いだった。初期はまあまあ全力で抵抗されていた気もするが、何度か洗っているうちにすっかり手慣れてきたものだ。今はほぼスキンシップだと思っている。手順としては大体以下の通り。

@洗面ボウルに浅くぬるま湯を張る。暴れられると服が濡れる恐れがあるので、この時脱いでおく。

A鳥を連れてくる。水浴び前は、特に宣言しなくてもどういうわけか目をぎゅっと瞑るので簡単に捕まえられる。下着姿の私を見てこの後のことを察するのだろうか。眉間にちっちゃい皺が寄っていてかわいい。

Bぬるま湯に浸からせつつ、弱めのシャワーでマッサージがてら全身を流す。水鳥の羽って水を弾くはずだけど、この鳥は何故か油分の少ないふわふわの羽毛なので、感覚的にはポメラニアンでも洗っているような感じだ。どうやって野生で暮らしてきたんだろう。目に水が入るのを恐れているのか、洗われている間も目を開けないし。水鳥なのに。

Cタオルドライ。後、扇風機をつけておくと勝手に風に当たっていてくれる。その間に洗面台の水を、軽く埃を浚った上で流す。もふもふの小動物は抜け毛がすごかったりするが、この鳥は羽があんまり抜けないので本当に手がかからない。


洗面所の片づけを終えて様子を見に行くと、そよそよと一定の加減を保つ人工の風に吹かれている後ろ姿が、ゆるやかな呼吸に合わせて軽く膨らんだり、気持ちしぼんだりを繰り返していたりする。雪見だいふくが生き物だったらこんな感じだろうか、平和ボケしきった寝姿がかわいい。渡り鳥は右脳と左脳で交互に眠る半球睡眠をするというが、今は両目を閉じて完全に寝付いているように見える。
とは言え、そこは元・野生だ。寝ている隙に抱っこしたろう、などとやましい考えで腿に乗せると、いきなりパチッと目を開くことも。旬の囲み目メイクよろしくはっきりとした目元が驚愕に揺れ、あわあわと焦った様子で目を閉じてみたり、そのままばたばたと飛び立とうとしたりする。やっぱり、私が服を着ていないと、お風呂の合図だと思うのだろうか。「もう今日は入れないよ」と声をかけてみても、キュゥ、と抗議に鳴くばかりで、ちっとも目を合わせてくれない。



ホシウミカモメ観察日記




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