拾得時の状況


鳥を拾った。というか、家に入られてしまった。
野鳥風情に不覚を取った原因として、憔悴しきっての帰宅だったからという以上に、その鳥の形貌が挙げられる。見つけた当初、我が家の玄関先に座り込んでいた姿は、俊敏というイメージからはかけ離れていたのだ。こんなやつに横を抜かれるなんて誰が想像するだろう。
両てのひら大のまっしろいふわふわ。目力だけはやたらに強いが、まんまるでもっちりとした大福フォルムは飛行に適しているとは言い難く。小さめの翼がかろうじて見受けられるとはいえ、類似の鳥種は咄嗟に思い当たらない。強いて言うなら、巨大なシマエナガか。羽先にちょこんと差した黒い模様もそれっぽい。雪見だいふく然としたふくよかな輪郭のなかで、頭部にちょこちょこと飛び出ている丸っこい飾り羽がチャームポイントらしかった。
珍しいとは思いつつ、実際精神がズタボロでそれどころではなかった。よって、特に怪我などもなさそうなのをいいことにスルーを決め込んだのだが。まさかこんなにもどんくさそうな怪鳥が、ドアを開けた瞬間、家主を差し置いて弾丸のように飛び込んでくるなんて。
無論、もふもふの野生動物に突如押し入られた状況を呆然と享受しただけの私ではない。特に、このときは虫の居所が悪かった。ひとまず壊されたら困る大事なものをクローゼットにまとめて突っ込んだ後、鳥獣保護管理法に則り、速やかに然るべき機関への連絡を試みたことも此処に記しておこう。私はコンプラ遵守を使命に掲げる善良千万な市民である。
だから決して、鳥がかわいくて誘惑に屈したとか、どことなく知り合い――それもとびきり特別に思っている人に似た雰囲気に絆されてしまったとか、そんな理由で家におくのではない。言ってしまえば、根負けした。なにしろ抱き上げようとすると異様な力で手近なものにしがみつくし(それでも腰を入れて持ち上げようとしたが、両手に伝わる圧倒的手触りにやがて目的を忘れた)、通報すべくスマホを出そうもんなら猛然と妨害してくるのである(ぺとぺとのちっちゃい足に連続キックされ多幸感で脳が溶けた)。ついでに親の仇が如くつつかれた液晶がバキバキになったがこれは直さずにおく。ポジティブに考えれば、見たくない連絡がきたとしても気持ち的にワンクッションおけるわけだし。私の奮闘の証としよう。
つまりそう、この鳥との同居はそれなりの攻防の果てに至った妥協点なのである。ペット飼育可の物件とはいえ、大家さんや行政に発見された場合に備え、無実を証明するための状況記録として観察日記をつけることとする。居座られてしまっただけだ。かわいいから飼うのではない。断じて。



ホシウミカモメ観察日記




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