きよおみくんはわたしが守る
 1.高潔なる白日




 聖臣くんは、おひさまを描くときに赤いクレヨンを使わない。そういう男の子だった。幼い私は彼のことを、協調性のない変わり者だと思い込んでいた。
「太陽は赤色じゃない。オレンジでも、黄色でもない。……今の時間帯は」
 彼は大人びた口調でそう告げて画用紙に向き直る。どうして赤色を使わないのかという素朴な疑問に対し、返答も端的なものだった。
「夕陽を描くなら、俺だって赤を使う」
 彼の太陽は私のものとも、他の園児たちの描くものとも違う。違う、という一点だけに目が眩んで、私はそれまで彼の描く絵そのものに然程の関心を寄せたことはなかった。ただ、聖臣くんの視線を追って窓を一瞥し、それから視線を戻してみると、世界が変わったのだ。
 聖臣くんのそれは円形に塗り残された白紙と、その輪郭を鋭利に刻む水色の縁取り線によって表現されていた。光だ。私は息を呑み、まじまじとその絵を覗き込んだ。深い青色と薄い水色。所々に黄緑も混ざっているだろうか。画用紙の上で調色されたグラデーションは美しく、否、美しさ以上に、いま窓枠の向こうに見える午下の空をそのまま写しとろうと努めていた。自分の手元にあるものを見比べてみると――みんなそうしているから、今の今まで正しいものと疑わなかったのに。殆ど青一色で塗り潰された画面に大きく陣取る夕焼け色の円が、今は如何にも恥知らずに見えた。
「……なに。なにかおかしい?」
「ううん、正しい」
 ただしい。聖臣くんが正しいよ。私はその言葉を幾度も、幾度も舌の上で転がした。どうして気付かなかったのだろう。変わり者なんかじゃない。私がきちんと目を向けてこなかっただけで、このひとはきっといつでもただ正しかったのだ。誰に構うこともなく。自分の隣で目に映るままの青空を淡々と描き取っている男の子がその瞬間、何よりも正しい存在に思われた。
 幼心への刷り込みがやがて信仰に変質するというのは自然にありがちな流れである。佐久早聖臣は正しく直向きで、そして不器用だった。いっそ危ういほどに。彼の正しさを守ってやらねばならない。心臓の奥底に芽吹いた決意は、意思より強い命令形として血流に溶け出し、まさに私の在り方を定義した。


(きよおみくんはわたしが守る1/2)


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