井闥山

弱点の話/佐久早

なんか、弱点が思いつかないんだよな。
古森が独りごつように評すのを聞いた時、あの時でさえ私達はまだ中学も卒業していなかったのだから末恐ろしい。だが、十代前半の少年を表すには些か重々しいその評価は、あながち出鱈目とも言い難かった。暮れ方の帰路で、14歳の私も古森の呟きに全面的に同意した覚えがある。
渦中の人物、佐久早聖臣は有り体に言えば超人だった、少なくとも平凡な同級生の身に体感する印象としては。いや、宇宙人と称した方がよりイメージに近いかもしれない。その点に於いては正直、他人事のように従兄弟を語る古森だって同じ括りである。級友はすぐ隣から注がれる胡乱な視線にも気付かず「あ、でも腐った食べ物は駄目か」などと冗談めかして付け加えてみせた。佐久早の弱点。それは変に重たくなってしまった空気を切り替えるべく適度に軽はずみな調子で提示された。腐った食べ物って。弱点っていうかそれ、全人類ダメなやつじゃん。人類の弱点であって、佐久早のじゃないじゃん。

腐っていない食べ物ならば好き嫌いはない。否、多少の味の好みはあれど、衛生面さえ問題なければ基本的にはなんでも食べられる。もうその時点で私には無理だ、佐久早を理解することなど。好き嫌いがないって、好きも嫌いもないってことだ。じっさい彼は好物と称する梅干しを頬張るときも、顔色はあの社会悪とも呼ぶべきトマトを口に運ぶときのそれと殆ど相違がない。こいつ喜びも悲しみもないじゃん。明らかにおかしい、人間とは思えない。
「まあトマトのことは知らないけどさ、実際佐久早って変わってるよね」
「だよね?やっぱり人間じゃないよね?」
「いや、そうまでは言ってないけども」

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佐久早を不快にさせるのはそう難しいことじゃない。佐久早が不快に思うものは一般的な感性をもつ人と比べてだいぶ多いし、その不快感を隠そうともしないからだ。弱点がバレバレなのだ、現に私は佐久早をキレさせるための代替案をこの30分間で軽く100個は思いついた。古森なら200個は提示できるだろう。惜しむらくはそれを語り聞かせてやるための手段をもたないこと。両手足を縛り上げられ猿轡を深くしっっっかりめに噛まされている私は、頼むからもうちょい人道的且つスマートな嫌がらせを考えてくれ、つーか取り敢えず一回私の話を聞いてくれと見ず知らずの人達に念を送るくらいしか退屈を凌ぐ手段をもたないのである。
やっぱりこの人たちから見ても、私は佐久早のウィークポイントだったのだろうか。けど残念、あいつがダメなのはたとえば腐った食べ物だとか、衛生系に偏っている。人質作戦なんて通用しないぞ、人の心ないからね!





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