Loop-Loop


*レン♀なので注意。恋ちゃんが少々病んでいるのでさらに注意。










私の名前を、ちゃんと呼んで。

「……神宮寺?」

わかっている。自分でも可笑しなことを言っていることは十二分に承知している。私の恋人は、年上で、元教師で、同じ事務所で。世の中に存在する恋愛の障害となるものをこれでもかというくらい集めてみましたと言わんばかりの関係で。(これ以上付け加えるとするならば、実は血がつながっていましたくらいしか思いつかない)
そんな障害の中でも、私たちの交際は細々と続いていた。そう、本当に細々と。少しでも心に曇りがあればちぎれてしまう蜘蛛の糸のように。

せっかくの、1ヶ月ぶりの2人きりの時間だった。今日は寂しい顔を見せないと、今日は絶対にリューヤさんを困らせないと、自分自身と誓ったのに、一体どういうことだろう。

リューヤさんと会っている時程不安になるって、これってどういうことだろう。

「私の、名前、ちゃんと呼んでよ」
「恋、ちゃんと呼んでるだろ。おい……っ」

歩み寄る彼を突き飛ばした。何でだろう。つきあい始めた頃は、ただ会えるだけで嬉しかった。せっかく会えても、気持ちが不安定になって、彼に当たり散らすようになってしまったのはいつからだろう。

あなたはいつも手を差し伸べてくれるのに、わざわざ突き放すのは何故?

手を差し伸べられれば、その都度不安になるからだよ。

(だって、リューヤさんが神宮寺なんて呼ぶから)

最初に好きだと言ったのは私の方で。私に辛い思いをさせるからと渋った彼に「それでもかまわないから」と縋ったのも私の方で。それでも、私は。

「恋……頼むから泣くな……」

(だって、リューヤさんが神宮寺なんて呼ぶから)

私は、いつまでたっても自分の弱さと向き合えない。手を差し伸べられて不安になるのは、
その手をとってしまったらもう私を追いかけてくれないかもしれないと思うから。手を振り払うのは、何度だって差し伸べて欲しいから。

弱い私を助けてほしいのに、助けられると怖くなる。そして逃げる。そんな不毛な永遠のループ。廻っているのは、私、だけ?

「恋、さわっていいか?」

立ち竦む私に、彼は問いかけた。ほらね、あなたはいつもこう。私が手を振り払ったら、「いい」って言うまで触れてこない。じゃあ、私が何も言わなかったら、あなたはもう私には触れてくれないの?そう考えながらも、やっぱりいつものように、私はこの質問に頷いてしまうんだ。

「……寂しかったか?」

私を抱きすくめながら、とびきりの優しくて甘ったるい声であなたは言う。他の誰かが聞いても、きっといつもの声との違いなんてわからない。それでも私には、リューヤさんが私を甘やかしてくれる時の声がわかる。そんな特別な響きで、なんて答えのわかりきった質問をするんだろう。だから答えは言ってあげないんだ。

この永遠のループに廻っているのは自分だけ、なんて、とんだ妄想だったのかもしれない。廻るのは、ふたり。不安のループに乗って、いつまでも。私たちが私たちであり続ける以上、付きまとう不安を、何度でも優しい声で宥めてほしい。愚図る赤子をあやすように優しく、名前を呼んで、存在を綺麗に縁取って。



(「愛してる」なんていらないから)
(お願いだから、私の名前をちゃんと呼んで)



* * *

龍レン♀を書いたことがなかったので書いてみたはいいのですが、考えれば考えるほど恋ちゃんが情緒不安定な子になっていったという罠。
20140109


back
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -