愛、事始め。


*早乙女学園時代の新年マサレン。レンがけっこう乙女。










猫も走るほど忙しい年末、挨拶まわりで目が回るほど忙しい年始。人との絆は何にも代え難いほど大切なものであるとは、ルームメイト兼恋人である聖川真斗がよく言う言葉であるが、財閥の一切合切を長兄に任せきりの自分には、たいして忙しくない時期である。デビューをすれば仕事でそんなことも言っていられなくなるのかもしれないが。(むしろ、余計なことに煩わされるよりはそうなったほうが良いとも思う)聖川はというと、ちゃらんぽらんな俺とは違い、財閥の長男としての責務を果たすために飛び回っている状態であった。唯一繋がったのは、あいつが12月の初め頃から丁寧に準備をしていた年賀状でのみ。純和風のデザインに、俺からしてみれば達筆なのかそうでないのかよくわからないような宛名。「神宮寺レン様」と大きく書かれた葉書を眺めると、なおさらあいつがそばにいないことが思い出されて、柄でもないが少し切なかった。兄からの「正月くらい顔を見せろ」というメールに、適当な理由をつけて断ったのは自分なのに、ほとんどが帰省して静かな学園寮に残ることを選んだのは自分なのに、感傷的になるだなんて随分自分勝手だ。

「今戻った」
「……お早いお帰りで」

そんなことを考えている矢先に聖川が帰寮したのは、偶然の一致以外の何物でもないのは重々承知している。もう年が明けて一週間は経ったのだし、そろそろ帰ってきてもおかしくはない。俺からしてみれば「お早いお帰り」などでは全然なかったわけだが、一人で時間をもてあまして、曲がりなりにも寂しいなんていう感情を抱いていたことなど言えるわけがないし、そもそも言うつもりもない。

「変わりはなかったか?お前のことだからろくに正月気分も味わっていないのだろう」
「雑煮が食べたい。一味多めで」
「ちょうど実家から餅をもってきた。作ろう」

聖川の本家でついたという餅はきっと美味しいのだろうが、そもそも餅なんて一生に数度しか食べたことがないので、善し悪しはよくわからなかった。もともとかかっていた一味唐辛子の10倍の量をふりかける俺をみて、聖川は盛大に眉を顰めたけれど、今年初の小言はまだ出てこなかった。
雑煮を食べ終わり、片付けをする聖川をぼんやりと眺めながら、どうして自分は寂しいなんて思ったのだろうと考えた。二人でいたって、とくに何かしているわけでもない。二人でいっしょにやることといえば、体を繋げることぐらいなものだ。健康的な男子としては恥ずべきことでもないが、恋人同士の行いとしてはいささか疑問が残るような気もする。もっと恋人らしい何かがあれば良いのかもしれないが、男同士なんてこんなものだろうとも思う。つまりは、空腹が満たされたらやることはもう一つしか残されていない。

ソファに座っていた俺に覆い被さってきた聖川はいつもより性急で、彼も少なからず焦れていたのかと思うと口の端が上がってしまった。そんな俺を不思議そうに見やる聖川に、意地の悪いことを言ってみようと思ったのは、寂しさによって溜まった鬱憤のせいだろうか。

「たまにはお前が下になってみるのはどうだい?」
「……何を寝惚けたことを」

寝惚けているのならこんなにやる気満々なわけないだろうに、と思いながら聖川の男にしては細くて白い手首を掴む。この腕が本当は驚くほど力強いことを俺は知っている。そしてこの腕に組み敷かれることを承諾し、求めたのも自分自身だ。本気で聖川を抱きたいわけではない。少し困らせてやりたかった、それだけのことだったのだ。

「俺からの年賀状、たくさん眺めてくれたようで良かった」
「……は?何言って、」
「枕元に置いておくほど喜んでくれたのだろう?」

しまった。やってしまった。いつでも見ることができるように枕元に置いていたのは本当のことであるし、口が裂けても言わないがついつい「神宮寺レン様」の字を指でなぞってしまったりしたのも本当のことだ。誤ったのはその年賀状を聖川が帰って来る前に片付けておかなかったことである。とりあえず弁解をしようと、口を開こうとした先に降ってきたのは、先ほどよりも大きな爆弾。

「返事のメールも、嬉しかった。出来れば最後まで詠みたかったのだが」
「……?」
「作りかけのメールというのも、可愛らしくていいものだな」
「バッ、まさか……馬鹿野郎!」

ピアノを嗜む繊細な腕を、気遣う思考なんてぶっ飛んでしまうほどの衝撃だった。慌ててテーブルの上の自分の携帯を手にとって、確認したのは送ろうか送るまいか悩みに悩んで葬ったはずの書き途中のメール。それが収められていたのは、何故か送信済みのフォルダで。書き始めたはいいが送るのが憚られたような、そんな内容のメールだ。(自分からは決して内容は言えない)顔から火が出るとはまさしくこういうことなのだろうと思いながら、手元の携帯電話から顔を上げることができない。
後ろからそっと、俺の顔をけしてのぞき込まないように聖川が腕を回してきた。頭に浮かんだのは、意地の悪いことはするものではないという、今年最初の教訓と、やり場のない自分を包んでくれるのはどうしたって聖川なのだという認識だった。



(とりあえず、今年もよろしく)



* * *
アンケートにコメントを残して頂いた方のネタを拝借致しました。素敵なネタだったのに、半分程度しか再現できていなくて申し訳ありません。
神宮寺が送った書きかけのメール、大して恥ずかしいことは書いてないと思うのですが、神宮寺のそういう失敗って死ぬほど可愛いよねっていう話。あと、お餅をはぐはぐ食べる神宮寺も絶対可愛いよねって話。私は今年も神宮寺一筋です。
20140106



back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -