初恋、始めました。3


*学パロです。レン♀です。色々大丈夫な方はどうぞ。










「初恋は実らない」とはよく言われる言葉だ。ジンクスのようなものでも、努力で何とか打ち破ってみたいとか考えてしまうのだが、勉強やスポーツと恋愛とはまるきり別物であるから、それもまた難しかったりする。恋愛経験豊富で、的確なアドバイスをくれるような友だちも、あいにく周りにはいない。

「翔―?何見てんの?」
「……今日の天気などを」
「今日も昼サッカーできそうだね!打倒2組!」

どう考えても不自然な俺の返事には気付かなかったこの友達は、クラスメイトの一十木音也という。うちの学園では大勢いる中等部からの編入生で、付き合いはまだ3年に満たないけれど、中1から中3までずっと同じクラスの腐れ縁だ。趣味がよく似ていて気も合うので、よくつるんでいる。そういえばこいつ、けっこうモテるんだよな、ということをふと思い出す。中等部の生徒会長を務めている音也は、同級生にも下級生にもよく好かれている。俺からしてみるとよくそんなこと平然と言えるなと思うようなことを、なんの臆面もなく口に出すからだろうか。例えば、男という生き物をざっくりと5タイプくらいに分類するとしたら、俺と音也は間違いなく同じグループに入るんだろうけれど、それ以上細分化してみると違うグループになるんだろうなって、そういう感じだ。

「……悪いけど、俺今日のサッカーパス」
「どしたの?何か用事?」

用事などない。ただ、伝えたいけれど伝えられない、大きな大きなかたまりが胸の中央に鎮座しているだけだ。もう一度、大きな窓から外の様子を見る。天気などを気にしていたのではない。俺がこんな風になったのは、恋の姿を視界にとらえたからだ。先ほどよりも少し遠くなった想い人の背中を見つめる。グラウンドに向かっているのは、次が体育の授業だからだろうか。ジャージ姿の恋は珍しい。男に囲まれている様子は珍しくも何ともない。胸のかたまりが心なしかふくらんだような気がする。

「ねえ翔、大丈夫?何かあったの?」
「言えねえよ!」

目の前にあった机を叩くと、考えていたよりもずっと大きな音が出て驚いた。幸いにして、次は移動教室であまり人がいなかったから、変に注目されることもなかった。目をまん丸にして驚いたのは、音也だけ。

「言えない……から、困ってんだよ……」

格好悪い。そんなこと百も承知だ。「恋が好き」というこの大きなかたまりを、自分ではどうしたらいいのか見当もつかない。

「んー……、よくわかんないけどさ。俺は、言えないことなんて絶対にないと思うよ」
「え……」
「だって、翔はしゃべれるでしょ。それはさ。言えないんじゃなくて、言わないっていうんじゃないの?」

その時、チャイムが鳴ってくれて助かった。呆けている俺の間抜けな顔を、音也に見られる心配はなくなったから。わかったことは、とてつもなく大きいと思っていたかたまりを、大きくしていたのは自分自身だったということ。「初恋は実らない」のではなく、「恋愛初心者は恋を実らせようとしない」の方が、もしかしたら正解なのかもしれない。現に、初恋を実らせて幸せになっている人は世の中に存在しているはずで、自分がそうなるためには一歩を踏み出すことが必要なのである。



そう決意したのが昨日のこと。思い立ったらすぐ行動に移さなければ、この勇気はあっという間にしぼんでしまうような気がした。

「あのさあ」
「んー」

今日も今日とて、うちの母親が作った晩飯を恋に届け、同じ時間を過ごす。和風パスタを上品に口元まで運ぶ彼女の唇がひどく扇情的に見えて、動悸が激しくなった。恋はとても幸せそうな顔で、美味しそうに飯を食べる。それなのに上品さは失われないのだから、不思議だといつも思う。

「俺さ、恋のこと好き」

ごくん、と恋がパスタを嚥下する音がやけに大きく響いた。俺を見つめる恋の瞳は相変わらずの綺麗なたれ目で、見つめつづけると心臓が変な揺れ方をした。そうしてから初めて、驚くほどムードも何も考えずに気持ちを伝えてしまったことに気がついたが、残念ながらもう時間を取り返すことはできなかった。

「……私も、オチビちゃんのことは好きだよ」

何もしていなくても少し困っているように見える恋の目が、本当に困惑した目になる瞬間を初めてとらえた、と思った。恋の言う「好き」が、俺のいう「好き」とはまったく違う色と温度しかもっていないということは、俺にだってすぐにわかった。

「……俺は、お前と付き合いたい。そういう意味で恋が好きだ」
「……はは、何それ。何のまねっこ?ドラマ?小説?そうかーオチビちゃんもそういう年頃になったかー」

手元のフォークにパスタを器用に巻き付ける作業に戻ろうとする恋の言葉は、完全に俺を男として見ていなくて、悔しくて、情けなくて、どうしようもなくなった。俺はお前のなかに入れないのか。お前がはべらせているたくさんの男たち。あいつらと同じ土俵にすら俺は上がれないのか。

「っ、じゃあ!あとどれだけ好きになれば、お前は俺を見てくれるんだよ!」

立ち上がって怒鳴った瞬間、怯えたように俺を見つめた恋の様子に、優越感を覚えた自分が嫌だった。こんなことで、怒鳴って怯えさせて、俺だって恋より優位に立つことができるんだって思うなんて。俺はそういう意味で男であることを恋に認めてほしいわけじゃないのに。俺はただ、この思いは中途半端で子どもっぽいものじゃないってことをわかってほしいだけなんだ。

「怒鳴ってごめん……でも、本気だから。本当の、本当にお前が好きだから。だから……俺のこと、ちゃんと男として見て」
「……努力、してみる」

恋のその答えには、さすがに内心苦笑するしかなかった。やっぱり、努力しなくてはいけないくらい今までは男と思われていなかったんだなということ。そして、そこで「うん」ではなく「努力する」でもなく、「努力してみる」と答えた恋の素直さに嬉しくなる単純な自分。ここまで恋に言わせたんだ。もうこのまま頑張り続けるしかないじゃないか。頑張れ自分、って。

初恋は甘酸っぱいと言われるが、俺にとってはきっとビタースイート。苦くて甘い、そんな初恋。



(好きに大きさがあるならば、)
(俺はあとどれだけ、お前を好きになればいい?)



* * *

音也を出せて満足。翔ちゃんに言わせたかった台詞も書けて満足。次は恋ちゃん視点で、色々補っていきたいと思います。とりあえず恋ちゃんを幸せにしたい。
20131024


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