Run down


*蘭→レンな片思い小ネタです。










「ランちゃん、今日は何が食べたい?聖川がいないから、俺が作るけど」

キッチンからこちらを眺めているレンは、シンプルな黒いエプロンを身にまとっていた。触れると暖かそうな橙色した髪は、すっきりと後ろにまとめられている。笑ってもいないのに目尻の下がった顔は、整ってはいるがロッカーには向かないな、といつも思う。

「肉」
「了解」

気のない返事を返し、手元の資料に視線を落とした。次にリリースする曲でタイアップをする予定のCMの資料であり、期限としてはそこまで切羽詰まっている案件ではない。それでも、だからといって後回しにしていい仕事などある筈がないのだから資料に集中したいのだが、横目でレンの様子を窺う行為をやめることができない。そんな自分に腹が立ったが、イライラしている理由は空腹のせいにすりかえた。

「……ちっ、おい、飯……まだか」
「まだまだ」

何も悪くない後輩にあたれば、自分の愚かさを痛感する。上手くいかない。最近の自分は、レンを見ていると、気持ちが上滑りして何もかもが進んでいかない。こうなってしまったのはいつからだろう。いや、そもそも再会したときだって、俺はこいつの甘さに苛立ちを覚えていたのだ。何も変わってなどいないのではないか。
そこまで考えて、自分はすでに神宮寺レンという人物を認めてきている事実に思い当る。マスターコースが始まって、先輩後輩という関係になった当初は、本気にならないレンにずいぶん激昂したものだったが、レンの評価は自分の中ですでに改まっている。なかなか骨のある奴だと、共に仕事をしてそう感じた。

では、何故自分はこうも立ちゆかなくなっているのか、と最初の疑問へと思考がループする。認めろよ、黒崎蘭丸。神宮寺レンを目で追ってしまっているという事実を。あろうことか、この自分が、アイドルで男で事務所の後輩で女たらしで、でもいつでも俺の内側を引っ掻いていくこいつに惚れているのかもしれないという事実を。

「あ、サラダのドレッシング何がいい?……ねぇランちゃん、聞いてる?」
「うるせぇ!仕事中に話しかけんな!」
「……はいはい。じゃあゴマにしようかな」

ほら、こうなる。話しかけられても悪態をついてしまう。話しかけようとしても喧嘩をふっかけるようにしかできない。そばにいても楽しくない。イライラする。それでもいっしょにいたいと思うのは、気になってしまうのは、これが恋というものだからなのだろうか。(そもそもこの俺が恋などと考えること自体、レンに影響を受けているのか)
百歩譲って、これが所謂恋というものだったする。恋とは初めてしたけれど、何て厄介なものなのだろうか。相手の一挙手一投足に振り回される。自分の感情をコントロールすることができない。自分の意志でエンジンをかけ、アクセルを踏めばオイルが流れ出す、それくらい単純なものであったならばどんなにか楽だろうか。

「お待たせ、ランちゃん。好きでしょ?ビーフストロガノフ」

どんなに複雑でも、この笑顔一つで気持ちが軽くなるのだから、やっぱり恋とは単純なものに分類されるのかもしれない。



(この恋のエンジンはお前、アクセルもお前)



* * *

初めて蘭レンを書いたら、やっぱり書きたいことが迷子になりました。無念。私のイメージとしては、蘭レンは付き合うとかそういうことに一生ならなさそうな二人です。どっちかの片思いか両片思い止まり。付き合っているイメージは全然わきません。どなたか付き合っているラブラブな蘭レンください←
20130927

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