初恋、始めました。


*学パロです。レン♀です。色々大丈夫な方のみ、お読みください。










この世の何よりも綺麗だ、といつも思っている夕日色した髪が、真っ赤な高級車から降りて来るのを、マンションの廊下から眺めた。ほぼ毎日のように、違う色の車から降りて来るあいつが、寂しそうな顔をしていることに気が付いているのは、きっと俺しかいない。

「おかえり、恋」
「……ずいぶん遅いんだね、オチビちゃん」
「部活、自主練してた。あと、オチビちゃんって呼ぶのヤメロ」

俺の方を見ようともせずに家の鍵を取り出すのもいつものことだ。男といっしょにいるところを他の誰に見られても平気そうにしているくせに、俺が見ていた時は気まずいようにしているのは、どう受け取ればいいのかな。

「そういう科白は、私よりも背が高くなってから言うことだね、オチビちゃん」

いつもお決まりの言葉を吐いて、恋はドアに吸い込まれていく。寂しさを紛らわすように男と遊んでおきながら、どうしてそうやって、自分から進んで一人の部屋に帰りたがろうとするのだろう。女心、とりわけ恋の心は、複雑怪奇でよくわからない。



早乙女学園、小学部から大学部までが併設された私立の学園で、俺はそこの中学部3年。うちの学園は、敷地面積や学校設備がかなりのものであるが、特別金持ちしか入学できないとかいうところではない。なんでも、学園の創設者が昔かなり売れたアイドルで、私産をはたいてこの学園を経営しているらしい。また、こういう一貫校には珍しく、上の学部に行くためには毎回試験を受ける必要がある。つまり、金を積むだけでは上の学部には上がれないということで、一貫校だが生徒の入れ替わりはけっこう激しかったりする。
さっき俺をからかって行ってしまった奴は、神宮寺恋という。早乙女学園高等部の2年だが、ちょうど1年前くらいに中途入学してきた、うちのお隣さんである。あいつは学園でもちょっとした有名人で、なんと実家は今をときめく神宮寺財閥。その上、道行く誰もが一度ならず二度も三度も振り返るほどの美少女。そんな財閥令嬢の恋だが、どういう事情があるのか、今はこの俺みたいな庶民の家の子が暮らすようなマンションに一人暮らし。たまにお手伝いさんだか執事だかのような人が来ているのを見たことがあるが、ここに越してきてから実家には一度も帰っている様子がない。どうやら何かよくない事情でも抱えているようである。そして、最後にもう一つだけ大切なことを説明しよう。神宮寺恋は、俺、来栖翔の初恋の人である。



「れーん、めしー。開けろー」

隣の部屋のインターホンを、せっかちに3回鳴らす。いつもならば、うちの母親の飯と聞けばすぐにでも出て来るのに、今日は反応が遅いようだ。4人家族の俺の家族でも暮らせるようなこのマンションに、たった一人で暮らす寂しさを、ふと思う。たまに朝までこの部屋に帰って来ないことがあるのは、その寂しさに耐えられないせいなのだろうかとぼんやり考えると、何だか息苦しくなった。

「ごめん、お待たせー!私のごはんー!」
「飯だけかよ!……って、恋!お、おま、なんつーカッコしてんだ!阿呆!」
「何よ、急かされたから急いで出てきてやったのに」

「オチビちゃんには刺激が強かった?ごめんね?」と小馬鹿にした表情で、俺の手の中のチャーハンの皿を掻っ攫っていく恋を、どうしても直視できずに玄関で立ち止まってしまう。シャワーでも浴びていたのだろうか、ホットパンツとキャミソールを見に付けて、バスタオルで濡れた髪をかきあげるその様子は、俺にとってあまりにも扇情的だった。(おちつけ、俺!)そんな俺の気持ちなど知る由もなしに、さっさとテーブルでチャーハンを頬張る恋を睨みつけながら、リビングのソファに腰を下ろした。

こういうことがある度に思い知らされる。恋にとって、俺はただのお隣のガキでしかないということを。埋まりようのない2年の差を。中学部の校舎から偶然恋を見かけた時も、こうやって男として意識されていないことを感じた時も、俺はただ恋を心の中で思うことしかできない。こんなに、こんなに、好きなのに。
一度、聞いたことがある。「どうして毎日違う男と出かけるんだ」って。それを聞かれた恋は、困ったような泣きそうな顔を浮かべて、消え入りそうな声で「寂しいから」と言った。その後、自分の部屋で一人になってから、恋にあんな顔をさせてしまったことを激しく後悔した。俺だってガキじゃない。あの男たちと恋が何をしているのか知っている。たまの朝帰りの意味だってわかっている。それでも、恋は俺がこうして部屋に来ても、俺を引き留めることはしない。どんなに辛い一人の夜を過ごすことがわかっていても、俺に傍にいてほしいと頼んできたことはない。きっと、それが全ての答えだ。俺では恋の寂しさを埋める対象にはなれない。
早く中学部を卒業したい、と思った。せめて恋と同じ土台に上がれたら、と。そんな変化、恐らくなんの意味もないだろうということは、頭の隅っこではわかっているが認めたくない。なあ、俺はどうしたらお前と並べる?




「なあ」
「んー?」
「……俺がお前よりも背高くなったら、本当に絶対にオチビちゃんって呼ぶのヤメロよ」

馬鹿みたいだ、急にふっきれた。俺がなりたいのは恋の寂しさを慰めるその他大勢の内の一人ではない。

「……なんて呼んでほしいの?」
「……翔」

俺がなりたいのは、お前の寂しさを少しの隙間も残さずに埋めてやれる特別な一人なんだ。

「……わかった、約束ね。楽しみに待っててあげる」





(今はまだ、お隣の可愛い男の子)

(目指すのは、お前だけの特別な王子様)





* * *

学パロでレン♀で翔レンとか、どう考えても私しか得をしない設定です。本当にありがとうございました。さらーっと書いてみたんですが、他にも書きたい細かいところがたくさんある設定なんです。ジョージとか薫くんも絡ませたいし、翔ちゃんが一世一代の告白して付き合うところも書きたいし、他のメイン4人とか先輩を出すならどんな設定かなーとか……。気が向いたら続き書きたいなあと思ってます(^^)他の人たちの設定でいい案あったら是非くださいww←
20130811


back
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -