The moon was mirrored in eyes.


*トキレン。シリアスから甘くなりますが、甘みは微々たるものです。










思考の引き金となったのは、とある雑誌の記事であった。「読者に聞いた!ST☆RISH何でもランキング」というコーナーの「自分に自信がありそうなメンバーランキング」。果たして、この項目で上位を取ったからといって誰が喜ぶというのか。そもそも、これを読んだファンが喜ぶであろうか。と、誰が得をするのかもよくわからないこの項目、嬉しくもないトップを飾っていたのは、私の恋人である神宮寺レンであった。
なるほど確かに、彼は自分の魅力を熟知している。自らが微笑めば女性が恍惚としてため息を吐くことを知っているし、女性の心を浮き立たせる言葉を意図して操ることもできる。でも、彼があれほどまでに自分の外見を武器として使っているのは、「自分に自信がない」からだということを、知っている人は何人いるだろうか。
いつまでも、心の片隅に引っかかり続けている出来事がある。



「……鏡」
「鏡、ですか?」
「そう、鏡だね、これは」

彼が手にしているのは何の装飾も施されていないシンプルな縦長の卓上鏡だった。周りに散乱している可愛らしいラッピングの残骸を見るに、ファンからのプレゼントのようである。凝った包みとは正反対のシンプルな贈り物だが、一体どのような意味で贈られたものなのかがどうにも分かりづらい。(手紙も同封されていないようである)「これを眺めて、いつでも格好良い貴方でいてください」ということなのであろうか、と私ができ得る限りの女性らしい思考をしてみたが、それでも合点がいかなかった。そんなことよりも、その鏡を手に浮かない顔をしている恋人の様子ばかりがずっと気になった。

「珍しいですね、貴方のそういう顔は」

ファンからのプレゼントの対処法は、人それぞれである。要は個々人の考え方の違いであると思うが、中には中身に目も通さずに処分を頼むという人もいるらしい。私は手紙類には目を通すことができるようにマネージャーに頼んでいるが、レンはファンからのプレゼントを実際に身に付けることが多い(ただし、彼の眼鏡に叶うものに限られているようだが)いつも楽しそうにプレゼントを見ているレンにしては、あまり見たことのない反応をしていた。

「うーん、俺ね、鏡って苦手なんだよねえ」
「……そうですか、それは意外ですね」

「あのさ、イッチー、俺のことナルシストだと思ってるでしょ」とおどけた顔で笑う彼が、次に見せたのは違う顔で。

「鏡は人の姿をありのままに映し出してくれるけど、それが全部ありのままに受け止められるとは限らないでしょ」

そう言って、彼は手の中の鏡をそっと机に伏せた。その言葉を聞いた私は、様々なことを理解できたように思えた。彼の心を形作る複雑なものを、ほんの一欠片、解くことができたような。
綺麗なものは、そのまま綺麗に鏡に映る。醜いものが綺麗になって鏡に映ることは決してない。でも、それを見るのは人間だから、綺麗なものが綺麗に見える保証はない。むしろ、見たくないものばかりが際だって見えることだってあるのだろう。鏡は正直だから、それを見る人の心理状態が見えるものに大きく影響するということだ。だから彼は鏡を嫌うのだ。彼は、自分を認めることができないから(なんて、悲しいのだろう)

「そうですね……私たちは、自分では見ることのできない顔が1つだけありますからね」
「そうそう」

それは、自分の顔。

「じゃあ、何のために他人が存在するか、考えたことはありますか?」

ソファに座る彼を、覆い隠すようにして口づけた。できるだけ高い位置から、彼の視界に私以外が入らないようにと。顎を取られても彼が動揺しないようになったのはいつからだろうかと考える。いつも不敵に笑う彼が、居心地の悪さに赤くなって視線を彷徨わせる様子が気に入っていたので、とても残念だ。

「……イッチーは、質問に答えさせる気がまるでない」
「それは失礼しました。では、もう答えを言ってしまいましょう」

彼の目には、私が映っていた。

「鏡はありのまましか映してくれませんが、私は貴方のことを愛しているので、素敵な貴方を映すことができますよ」

はたと動きを止めた彼は、私の瞳を覗いていた。幼子のような臆病さをひた隠しながら。そして、きっとそこで、私に愛された自分を、見た。

「……良い鏡だね」
「ありがとうございます」

ただ願うのは、本物の鏡に映ったありのままの自分の姿を、貴方が素敵な自分として見ることができる日が一日も早く訪れますように。



(本当は誰よりも臆病な貴方のため、)
(私はいつまでも良い鏡でいます)



* * *

トキヤ誕に合わせてトキレンを書こう!と思ったのですが、全然めでたくないのは仕様です←
「鏡に映ったものが綺麗に見えるとは限らない」云々っていうのは、サモンナイト3でスカーレルさんが似たようなことを言っていたような気がします。あやふや。そのセリフがすごく好きで、ふと思い出したのでトキレンで妄想してみました。
20130808


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