ギフト


*付き合う前の那月と翔。翔ちゃんが弱め。










自分には、他人に羨まれるような才能が1つもないことは、重々承知していたつもりだった。空手も歌もダンスも、頑張ったから身についたもので。むしろ、頑張らないと誰かには追いつけなかった。今まではそれを不幸だと感じることは一度もなくて、周りの誰よりも努力をすればいいことだと考えているし、努力をすれば何だってできると思っている。

(でも……それは思い上がりだったのかもしれない)

どんなに努力したって辿り着けない場所はあるのかもしれないとか、追いつけない人間はいるのかもしれないと思うようになったのは、早乙女学園に入学してからだった。いや、もっと正確に言うと、那月に出会ってからだった。
「人は人、自分は自分。かなわないなら努力しろ」そう母親に言い聞かされて育ってきた自分が、初めて心の奥底から他人を「うらやましい」と思った。どんなに努力を重ねても、追いかけても、自分はこの歌を超えられない。一度そう感じてしまったら、その思いは俺の心に焦げのようにこびりついて離れなかった。そして、その感情は苦かった。想像していたよりもずっと醜かった。『嫉妬』という感情の恐ろしさを、知った。

ぶつけてしまったのは、俺の弱さが原因だったと思う。課題がうまくいかなくて苛立っていた。部屋に戻ると、相も変わらず俺にひっつく那月の様子にさらに苛立ちが増した。決して取り出してはいけないナイフが、口から出てしまった。

「いいよな、才能ある奴は呑気でいられて!」
「……翔ちゃん?」

だって、お前があまりにも伸びやかに、お前らしく歌うから。
すべてを伝えられる表現力を持ち合わせているから。

「うらやましいよ。俺の分も歌ってくれってくらいだ」

何故、言葉は時に本心を裏切るのだろうか。人間は弱い心を取り繕わなければ生きていけないからだろうか。こいつの歌はこいつのもので、俺の歌は俺の心だから、どんなにかなわなくとも俺が歌う意味はあるはずだと。わかっていたはずだったのに、俺の口から出てきたものは驚くほど鋭かった。何も考えていなさそうに見えて、本当はたくさんの繊細なものを那月が抱えていること。俺は知っていたはずだったのに。
恐る恐る見上げた那月の顔は、思っていたよりもずっと静かだった。夕方に凪ぐ風のような。

「翔ちゃんは、ぼくはもっていない才能をもってますよ」

慰めなんか、気休めなんかいらないと言う言葉を飲み込むことができたのは、那月がとても穏やかに微笑んだから。

「ぼくは、人のためには歌えません。ぼくのためにしか、歌えません。でも、翔ちゃんは違うでしょう?」

俺は、誰かのために歌える。俺は、誰かのために頑張ることができる。それは、色は地味で、目を惹くような柄なんてないような、自分自身さえ気づきもしない才能なんだろう。それでも、その才能を自分ではない他の誰かが拾い上げて見つけてくれたことに、きっとものすごい意味がある。

こういう時は「ごめん」よりも「ありがとう」だな、と思った。「ありがとうを素直に言える人間になりなさい」って、これも母親に言い聞かされてきた言葉の1つだから。



(誰かのために歌えるという、才能)
(ちっぽけで地味だけど、一生大事にしたい、お前が見つけてくれた才能)



* * *

ポルノグラフィティの『ギフト』という曲を聴いていて思いつき、書こう書こうとずっと暖めていたものでした。
なっちゃんは作詞も歌の表現もお星様から受信してピピピな人なので、誰かのために、伝えるためにって捏ねくり回して悶々するのはできない人だと思うんですよね。そういう人にとっては翔ちゃんみたいに誰かのために頑張れる人は眩しいんだろうなって思います。
イメージは入学後、割とすぐくらい。翔ちゃんだって弱さはあるよね、だって15歳だもの。久々の那翔楽しかったです。
20130731
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