儚いのは色だけ


*那翔前提の砂→翔で、前半のさっちゃんがバイオレンスな酷い人なので注意。










愛なんて、所詮ただの偶像崇拝だ。
確かじゃないものを信じて、裏切られるあいつを見るのは、今度こそ耐えられないと思った。

人に好意を向けることを、バカ正直に何も考えずに実行してしまう人間はとんでもなく愚かだと思う。愛だの恋だのという感情は神聖で、清らかで、とても素晴らしい。少なくとも、来栖翔という人物はそう信じているのだろう。そんなものだと思っているような奴が那月の同室になってしまったことを、もっと早く憂えておくべきだったのかもしれない。無邪気さは時としてナイフよりも鋭い切れ味で人を傷つける。無邪気故の、心変わりを取り繕うことができない愚直さによって。きっとあいつは、いつか那月を傷つける。あんなにも綺麗な顔で、那月に笑いかけることができるのだから。



「……お前がっ、何、をしたいのか理解できねえ!」
「それで俺は一向に構わないが?」
「俺は構うんだよ!馬鹿野郎!」

来栖翔。最近の那月の一番の興味の対象。そして、俺の不快感を助長させる人物。暴れるこいつを力でねじ伏せて、手足の自由を奪うことなど、赤子の手をひねるのと同じくらい容易かった。枕元に無造作に放られていたネクタイで手首を拘束してやれば、顔に浮かぶのはあからさまな恐怖の色。呆れるほど子どもなのだ、この少年は。
こんな子どもが、那月を純粋に愛している。那月の目を通して、ずっとこいつを観察してきて驚いた。驚きを通り越した呆れ、といった方が適切だろうか。いっそ痛いほどに伝わってくるのは、潔白な感情。自分も、相手も、何ものも疑わない愛という感情。こいつに教えてやる必要性を感じた、愛の本質を。過去に那月をボロボロに引き裂いた、純粋な愛の裏側にある悪意に満ちた本質を。泣き崩れられたって構いやしない。ガキはガキらしく泣きじゃくっているほうがお似合いかもしれない。

「早く戻れよ!那月……っ」

こういうときに冷静になれないこいつの言葉は、いとも簡単に、俺の中で赤子のように眠っている那月をゆり起こしてしまう。まだだ、まだ出てくるなと、ざわつく何処かを抑えつける。ここは俺のつくった場面、今は来栖翔と俺だけの閉鎖空間。本来ならば存在し得ない砂月という人間がいる歪んだ空間で、拘束される少年。抵抗をやめたのは、もうどうすることもできないことを悟ったからか。それとも、乱暴にされるのが以外と好きなのか。

(とても興味深い)

その時俺は、那月の思考ではなく、確かに自分自身から生まれたその感情に戸惑っていた。その汚れない瞳を闇で犯したとき、それは何色になるのかと。その思考は、那月の隣に相応しいこいつを作り上げるものでは、ない。

「愛なんて、所詮只の愚かな偶像崇拝なんだよ」
「…痛……っ…!」

ギリリ、と。手首を縫い合わせる赤い布が妙に似合うまっさらな肌、その中でも特にそそられる首に、爪を立てた。その指を横に滑らせる。真っ白なキャンバスに、新鮮な赤が浮かび上がってくるかのように、血が、滲む。溢れる血は、涙のようだった。一瞬零れる、刹那の輝き。

あぁ、これが、このアカが、俺の闇に溶けたらどうなる?
すぐに吸い込まれて黒の一部になる?
それとも……一点咲き誇るのだろうか。

「なぜ、逃げない?どうして……怯えない?」

その真摯な空色の瞳は、一瞬痛みに見開かれ、また俺をまっすぐに見つめ出す。わからない。こいつが恐怖の色をなくしたことも、俺自身に渦巻くこの感情も、わからない。この身体の中心がざわめくのは、那月のせいか、それとも別の何かなのか。

「何でって……今、お前、那月と同じ目、してるから」

わからない。

「すげー寂しそうな目、してるから」

わかることもある。那月の目を通してずっと見てきたこと。この少年は、誰かが辛いとき、やるせないとき、それから逃げないということ。人の痛みを受け止めて、笑えない奴の代わりに笑うこと。そんなこいつが、那月にとっても、俺にとっても、酷く眩しいということ。

新鮮な赤は、もう黒ずんでいた。



(儚いのは思いじゃない、)
(今ここで、儚いのは色だけ)



* * *

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実はパロじゃない砂翔は初書きでした。こういう砂翔が好きです。那月の目を通して翔ちゃんを見てきた砂月なんだから、絶対に翔ちゃんに好意が生まれると思うんですよね。でも那翔前提なので、さっちゃんはどうしても幸せになれないのです。辛いです、私が←
お題はTV様からお借りしました。
20130308
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