俺はそっと、彼に触れる
*レン→翔気味。
いつも君のピンチを見つけてしまうのは、きっと俺がいつも君を見ているからなのだと思う。161センチという小さな身体で、いつも元気に動き回る君。柔らかそうな金髪を揺らして、くしゃっと小動物みたいに笑う君。何にでも全力で、見てるこっちが心配になるくらいなのに決して折れない君。全部の君が輝いていて、目を離せなくて、気付けばいつでも目で追っている自分がいるんだ。
「だからさ、1回でいいんだ、御礼をさせてほしくて」
廊下の曲がり角の向こうで話しているのは、オチビちゃんと……Aクラスの、何だっけ。(名前が全然思い出せない)でも辛うじて顔を覚えているのは、最近やけにオチビちゃんに纏わりついてSクラスに来ていたからだと思う。たしか、「どうしても君に曲を作りたい」だとか何とか、熱心に語っていたような気がする。まぁ大体話は見えてきて、恐らくは曲を作らせてくれた御礼にと、食事にでも誘われているのだろう。オチビちゃんは本当に優しいというかお人好しで、人を疑うということを知らないからとても困る。馬鹿正直に人間の上っ面の綺麗な部分ばかりを見て信じてちゃ、いつか酷い目にあうよ?俺くらい思考が歪んでる人間が見れば、そいつの行為の裏に下心があることくらいすぐわかった。純粋に喜んでいたオチビちゃんには言わなかったけどね。(まぁ、そこまで過保護になるつもりもない、俺のものでもないんだし)
「君が僕の曲を歌ってくれて、本当に感動したんだよ。だから……」
できるなら出ていかないでおこうと思っていた。オチビちゃんだって小さい子どもじゃないんだし、自分で何とかできることはしないとね。君は小さくて華奢だけど多分俺より喧嘩は強いだろうし、1対1ならそんなに心配することもないんだけれど。如何せん、君は無防備すぎるから。勢いをつけた男が、オチビちゃんの腕を掴む。うーん、ここまでかな。
「はい、ストーップ」
笑顔で男の腕を掴みながら、空いたもう片方の手をオチビちゃんの首に回す。たったこれだけのことなのに、オチビちゃんの身体はすっぽり俺の身体に収まって、まるで後ろから抱き締めているみたいな構図になる。(本当にちっちゃいんだから)
「下心アリアリの手で触んないでやってくれるかな?この子ね、君が思ってるよりずーっと純粋なの」
「え、レン?」
俺を見てポカンとしているだろうオチビちゃんはとりあえず置いておいて、男にニッコリと微笑みかける。(あのね、お呼びじゃないんだよ)それだけで何も言わずに逃げて行っちゃったから、よっぽど後ろ暗いことがあったんだろうね。このまま強引にキスの1つでもしようと思っていたのかもしれない。まぁそんなことしたら確実にオチビちゃんにグーで殴られると思うけどねぇ。そんなことも予想できないようじゃ、あんたがこの子に触れる資格なんてない。
「サンキュー。レン。なんかあいつ、いい奴なんだけどしつこくて困ってて……」
後ろを振り返りながら言うオチビちゃんに、俺は開いた口が塞がらなくなった。ここまで迫られてるのにまだいい奴と言えるなんて、本当にお人好しというかむしろ鈍感というか。(多分後者だ)まっすぐ俺を見上げる空色の瞳を見てため息を吐きながら、オチビちゃんの頭にポンと手をのせ、優しく2回叩いてやった。
「え、何……?」
「悪い狼に食べられないよーに、おまじないだよ」
片目をつむって、精一杯おどけてみせる。今はまだ、これしかできない。だって俺はね、君を狙うその他大勢の男たちなんかとはいっしょになりたくないんだよ。
「……それ、お前のことじゃねーのかよ、いっつも女の子はべらせてるくせに……」
頬をほんのり紅く染めて、目線を横に外しながらそんなことを呟く。そういう仕草の1つ1つが、どれだけ男を魅了するのかをきっと君はまったくわかっていない。
「でもね、俺が守ってあげるのは翔だけなんだよ。知ってた?」
俺はいい狼さんだから、好きな子は守るんだよ。まぁ結局は狼だから、いつかは食べちゃうんだけど。(今はまだその時じゃない)もう一度、ポンと頭に触れる。これはおまじないなんだ。いつも君のことを見守っている俺に、いつか君が気付いてくれるようにって。
(俺はそっと、彼に触れる)
* * *
これくらい紳氏な攻め神宮寺さんが好きです。
きっとレンにとって、他人を疑わなくて他人に優しい翔ちゃんはすごく眩しい存在なんだろうなぁと思うのです。自分が無意識に人の裏を見てしまうところがあるから、なおさら翔ちゃんを羨ましく思っていたらいいなぁとか思っていたらこんなものができました。
必要以上に人の裏を見てしまって、必要以上にたくさん傷ついてきたレンを、翔ちゃんがたくさん幸せにしてあげてくれるといいと思います。ぱっと見はレンが翔ちゃんを守ってるように見えるけど、精神的な深いところでは翔ちゃんがレンをすごく支えてる、そんなレン翔が大好きです(^^)
20111008
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