The day before......


*レン誕生日前日の音レン。










愛しい君の生まれた日、特別に愛したいから、だから。明日はレッスンを休みにして、今日だってほどほどに切り上げて会いに来たのに、部屋のドアが開けられると「どうしたの?」の声。あれ、俺1人で空回りしてる?扉を開けたら、俺の大好きな形のいい唇をほころばせたレンが、「待ってたよ」って出迎えてくれる瞬間を想像していたのだけれど。人生、妄想通りに上手くは運ばないみたいだ。

「えぇーっと、レン、明日誕生日だよね……?」
「…………ああ。そうだっけ、イッキ、よく覚えてたね。」

恐る恐る吐き出した俺の質問に、彼から答えが返ってくるまでたっぷり10秒は時間がかかった。他人の感情の機微には驚くほど敏感なレンが、自分自身のことにはまるで関心がないということはわかっているつもりだったが、ここまでレスポンスが遅いと不安になる。彼が忘れていたとしても、俺は忘れたりしない。俺の大事な恋人の特別な日。ていうか、こういう記念日は一緒に過ごすものなんじゃないの?俺が勝手にはしゃいでるだけなの?俺にとってレンは初めての恋人だけど、レンにとってはそうじゃない。そのぶんの温度差を感じてしまうことが俺は怖かった。それでも、誕生日くらいはお祝いしたっていいのではないか。その思いが俺に次の言葉を続けさせた。

「プレゼント、何がいい?」
「……うーん、いらないかな。俺は今年のイッキの誕生日、何もあげてないし」

レンが本当に欲しいと思っているものをあげたいから。そうやってプレゼントを買わずにいたことが裏目に出た。そう、今年の俺の誕生日には、俺たちはまだ付き合っていなかったもんね。でもそんなもの、来年から特別なものにしていけばいいわけで、だから今から始めればいいじゃない、そういう習慣を。

「い―から!何かないの?」
「………ない……んだよねぇ、悪いけど」

心底申し訳なさそうにするレンの様子に、こっちまであちこち痛くなった。そうだ、すっかり忘れていたけど、彼には欲がないんだった。与えられることに慣れていないから、与えられると怖くなる。でもそれじゃ、あんまりにも寂しいから。

「わかった、じゃあ俺をあげる!」
「は……?」
「だから、プレゼント俺!」

キザだの、ありきたりだのは言ってくれるな。これくらいじゃないとレンは遠慮するから。

「………いらない」

……え?と、聞き返すだけの余裕を俺は持ち合わせていなかった。今いらないって言った?俺いらない?え、俺いらない人?へこんでもへこんでも元通り、形状記憶合金(byトキヤ)な俺だって、流石にベッコリやられた。気持ちの重さのぶんだけめり込んでいる。何も言えずにいた俺に、レンが続けた言葉は。

「イッキは元々俺のだから、今更いらない」

なんて、赤く熟れたおいしそうな苺のような可愛らしい頬をしてそんなことを言うから。よそ行きの神宮寺レンではない顔を、俺の前でだけはしてくれるから。レッスン放り出して来て良かったって思えるじゃん。

「じゃあ、やっぱプレゼントは溢れんばかりの愛で!」
「………流石に臭いよ、イッキ」
「明日は特別仕様で愛してあげるから!」
「調子のってるとはたくからね」

そんな無防備な憎まれ口も嬉しくて、やっぱり君が愛しい。そんな2月14日前日。



(少し夜が短くなってきた、冬の終わりかけ、君の部屋)



* * *

誕生日くらいは切ない要素なしでと頑張ったつもりでいます。私は音レンに夢を見すぎでしょうか。神宮寺の誕生日に免じて許してください←
誕生日当日の話も書きたいと考えております(^^)
20130219


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