君と歌いたい


*薫→翔な薫くん視点。二万打企画小説です。










翔ちゃんは太陽みたいだって思う。だって、笑顔がキラキラ眩しくて、すごくあたたかいから。
翔ちゃんは月みたいだって思う。だって、デコボコ痛い傷がたくさんある裏側を上手に隠して、いつだって綺麗だから。
翔ちゃんは宇宙みたいだって思う。だって、翔ちゃんは僕のすべてだから。
……こんな風に、翔ちゃんのことばっかり考えています。あ、ちなみに翔ちゃんっていうのは、僕の彼女とかじゃなくて、僕の双子のお兄ちゃんです。



「……で、その雑誌の束はまた【翔ちゃん】?」

ずしり、といかにも重そうな雑誌の山を、そっとテーブルの上に置いた僕に、呆れ顔で話しかけるのは同じクラスの男友だち。それまでテーブルに広げていた菓子パンの袋を、さっと除けてくれる彼とは、もうけっこう長い付き合いになる。

「ありがと、よけてくれて」
「さすがに何度も怒られれば学習するってーの。『ちょっと、僕の翔ちゃんが汚れる!』ってな」

少々やり過ぎなほどにヒステリックな声で僕の真似をした友人を眇めるのもほどほどに、僕は束の一番上の雑誌を手にとった。表紙を飾る、僕と同年代の6人の青年たちの中で、一際小さいのに人一倍目をひく(と僕が信じて疑わない)のが翔ちゃんだ。表紙の中で、誰よりも輝いている空色の瞳。お人形さんみたいに美しくて柔らかい金色の髪。そして何よりも誰よりも彼はオシャレだ。僕と翔ちゃんは双子で、何もかもがそっくりだとよく言われる。実際に街を歩けば、翔ちゃんと間違われて握手やサインを求められることも少なくない。その度に僕は沸々とわき上がる怒りを堪えなければならない羽目になる。あんなに可愛い翔ちゃんと僕を見間違えるだなんて、貴女たち本当に彼のファンなんですか、と。(あ、表面上はしっかり笑って「人違いです」ってスルーするよ。翔ちゃんのイメージが悪くなったら大変だもんね)とにかく、翔ちゃんは僕よりもずっとキラキラで、ずっとずっと素敵なんだ。

「あ、それは保存用だから触らないで。こっちは見ていいから」
「はいはい」

3冊は買います、基本ですよみなさん。僕専用の鑑賞用、布教用、保存用。マンガやアニメ、美少女アイドルなんかにはまる人たちの気持ちが僕には痛いほどわかる。

「でもさ、何度も言うけど、どーして自分と同じ顔にそんなにはまるかね」
「だから、僕と翔ちゃんは全然違うの。いい?翔ちゃんが海だとしたら、僕はちっぽけな水滴なの」
「スマン、その例えよくわからん」

パラパラと雑誌をめくりながら、僕の言葉を話半分で聞く友人に、それ以上声をかけるのはやめることにした。こんなことを言いながらもずっと僕に付き合ってくれているのだ、もう無駄な言葉なんて必要がない。
周囲の人間から呆れた目で見られることにはもう慣れてしまった。自分の兄弟なら、いくらでも会えるし、触れるし、どうしてそんなに固執する必要があるのかと、そう問われることにも。その疑問はもっともだ。アイドルに憧れることなんて、限りなく偶像崇拝に近しい行為。でも僕にとっての翔ちゃんは偶像なんかじゃない。小さな頃から誰よりもそばにいた、『片割れ』と呼ばれるのにふさわしい存在。もう一人の自分なんだけど、自分とは違いすぎて……だからこそ狂おしいくらいに愛しい存在。

「あのね……やっぱり僕にもよくわかんないや」
「は?」

僕は翔ちゃんをどうしたいのだろう、と考える。
僕はずっとずっと唯一無二の翔ちゃんの片割れでいたい。
僕はいつだって翔ちゃんの1番のファンでいたい。
僕は翔ちゃんとは別の人間として見守り続けていたいとも思うし、翔ちゃんのようになりたいとも思う。
そこまで考えてふと気づくのだ、僕は翔ちゃんをどうにかしたいわけではなく、僕自身をどうにかしたいと思っているということに。

どうして僕ら、一人として生まれなかったのかな。僕が健康なせいで翔ちゃんは苦しい思いをいっぱいした。その代わりに、翔ちゃんは純粋で綺麗なものをみんな持っていってしまった。残った僕は淀んでいて、汚くて。

「たださ……近くにいるからといって手が届くかどうかはわからないっていうこと」
「……なんかいろいろと難しいんだなということだけはわかった」

そう言って笑う友人のあっけらかんとした態度が、今の僕にとっては何よりの救いだった。雑誌の表紙で笑う翔ちゃんの顔が、また少し眩しくなったような気がした。



(汚い水滴も、綺麗な海になれるのならば)
(僕は君になって、君と歌いたい)



* * *

何ヶ月ぶりかわからないほど久しぶりに文章を書いたら、完全に書きたいことが迷宮入りしました。無念。
当サイトでは初めての薫くんです。明るく人に迷惑をかけないヤンデレを書きたかったんです。薫くん→翔ちゃんの思いは恋心とかじゃなく、もっと単純でもっと根深いものだと思っているのですが、それをうまく言葉で言い表すことができないのが残念でなりません。また今度リベンジしたいです。
お題はTV様からお借りしました。
20130109


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